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独り荒野の真ん中で



独り言ってのは寂しいよ
独りの言葉ってのは寂しいよ
同意してくれる人がいないから
反対してくれる人がいないから

答えて欲しい人が、いないから

独り荒野の真ん中で


昔々のお話です。とある所に大きな荒野(こうや)がありました。そこはとてもとても広い荒野。見渡せど見渡せど山も森も海も見えない――地平線の果てまで続く荒地、見上げればさんさんと照りつける太陽、見下ろせば草木一つ無いひび割れた地面。しかし、そんな場所でも人は暮らせていました。

ミズヨミ。

彼等のおかげで荒野の民は生き延びていたのです。ミズヨミとはその名の通り水の流れを読む者。広大な荒野のどこを掘れば水が湧き出てくるか、広大な荒野のどこに向かえば水が湧き出ているオアシスがあるか、彼らには水のある場所が読めて、水のある場所を感じて、水のある場所へ民を導いてくれたのです。

彼等のおかげで荒野の民は飢え死ぬ事無く暮らせていました。ミズヨミとなるには非常に長い時間と、生まれ持ってのセンスが必須な為、誰でもなれる訳ではありません。この時代には2人のミズヨミがいて、彼等が民の生活を支えていました。

ある日の事です。荒野の向こうから馬に乗って人がやってきました。それは向こうの向こうにある王国からの使者。その国もここと同じように荒地に覆われていましたが、違いが二つありました。1つはそこの国に王様がいて、とても金持ちという点。そしてもう一つはその国にはミズヨミがいないという点でした。その国は深刻は水不足に悩まされていて、遠い国にいるというミズヨミの噂を聞き付けて来たのです。

「我が国に来るのだ、もちろん十分な報酬を約束しよう」
この誘いに男達は別の質問をしました。1人はお金の量を聞きました。そして、もう1人は他の者――家族や親友を連れていっても良いかと尋ねました。

王国の使者は答えました。最初の質問には一生遊んで暮らせるだけの金額を、そして次の質問には連れていけるのは1人だけだと。
「見ての通りこの馬には後1人しか乗れない。そもそも我が国が欲しいのは国を救うミズヨミ1人だけだ。余計なモノはいらない。女が欲しいのならいくらでも抱かせてやろう、よりどりみどりだ。召使いが欲しければいくらでも奴隷を与えよう。さぁ、我が国に来るのだ。」

王様の使者は金の延べ棒を差し出しながらそう言いました。。頼み事なのに命令的な物言い。荒野の民を見下しているような視線、そして癪に障るその言い草【奴隷】【よりどりみどり】、【いくらでも】、何よりも一番許せなかった一言【余計なモノ】。
1人のミズヨミは拒否しました。
「私には皆を救う義務がある、自分勝手にここを離れるわけにはいかない」
しかし、もう1人は行くと言い出しました。
「酒も食物も美女も――そして金もだ、全てが無い無い尽くしのこんな国に何の未来がある?俺は行くよ。そして金持ちになって幸せになってやるんだ」

1人は村に残り、1人は馬に乗って遠い国へと旅立ちました。残った方の妻は男に問いかけました。
「あたしがこんな事を言っても良いか分からないけどさ…行けば良かったのに。確かにこの国には未来とか輝かしい将来は無いよ。あたしがあなただったら、きっと行ってた」
娘は母親と同じ言葉を言いました。まだ言葉を理解出来ない娘は母親の言葉をオウムのように繰り返すだけです。
「いってたー、いってたー」

そして男は答えました。
「あの時言ったじゃん、私には皆を救う義務があるとかなんとか。違うんだ。俺はね、そんな出来た人間じゃないの。自分の事しか考えてない自己中心的な人間です」
娘がパパと同じ言葉を言います。
「じこちゅー、じこちゅー」

父親は娘の頭を撫でながら続きを話し出しました。
「俺はね、ここにいたいから残った。ミズヨミとしての使命とか義務とか言ってたけど…あれ、嘘」
「うそつきーうそつきー」
娘の声が聞こえる中、父親は照れながら言いました。
「君と、君がいるから残った」

妻は照れています、娘はにぱぁっとほほ笑んでいます。
「酒も食べ物もお金も…必要なのは確かだろうけど、それ以上に君達の方が大事」
妻は夫の手を取ります。そして答えます。
「あたしも…同じ。いたいから…一緒にいたいからいるの。今までも、そしてこれからも」
娘も小さな手で父親の手をきゅっと握ります。そして母親と同じ言葉を口にしました。
「いるのー、ずっといるのー」
父親はぎゅっと手達を握り返しました。優しそうに、離さないように…そして、愛するように。

その日の夜、妻は夫の背中に手を回しながらそっと呟きました。
「よくさ、あなたは今幸せですか?って問いかけがあるじゃない?その問いかけには色々な罠が含まれている事が多々あるけど…とまぁそんな事はおいといて、幸せですかと聞かれたら自信を持ってイエスと答える」

ベッドの中で妻が夫に囁きます。
「あたしは、幸せだよ。それはあなたの存在があるからだし、この子の存在もあるからさ」
横で子供が寝息を立てています。寝言でしょうか?母親の言葉を繰り返しています。
「あるのー、あるのー」
2人はくすっと笑います。

そして、今度は夫が妻を抱きしめそっと囁きます。
「多分ね、気付いたんだ。人は一人で幸せになるんじゃない。誰かを幸せにして、そして誰かに幸せにしてもらって初めてハッピーになれるんだって。もちろんさ、幸せの定義ってのは人それぞれだから何が正しいかは分からないし、これが正解だと決めつけるつもりもない。だけどさ…自分一人、誰もいない荒野の中で幸せだと言ってみた所で…単なる声の大きい独り言でしょ?何も返ってきやしない。それはきっと寂しいだけだから。それはきっと自分の望む幸せとは違うから」

「幸せってさ、お金とか物じゃない。それは形じゃないと思ってたんだよね。でも違う、ここに――すぐ側に、あったんだ」

優しく呟いて、ぎゅっと抱きしめました。誰が言ったかって?何を抱きしめたかって?そんな分かり切っている事は言いません。各自、考えて下さい。幸せを、幸福をぎゅっと抱きしめ、ぎゅっと抱きしめられ、お互いの体温が――気持ちが伝わった気がしました。


昔々のお話です。とあるそれぞれの場所で、2人の男が同じ言葉を言いました。
「「俺、幸せだ…」」
1人は荒野の真ん中で。
1人は皆に囲まれて。

独り、荒野の真ん中で。
ひとり、皆に囲まれて。

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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