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TEACH~教える事、教えられる事~



神は人を救わないし
人も人を救わない
だけど、人を救うものがいるとしたら
それは人以外に他ならない

TEACH~教える事、教えられる事~


それはとある世界のお話です。その世界では毎日にゅーすというモノが流れていました。それは家に居ながらにして国はおろか世界果ては宇宙の事までも知る事が出来るモノでした。今日もまたにゅーすが流れます。事故、窃盗、詐欺、横領、強盗、脅迫、暴行、強姦、殺人、よりどりみどりです。

その世界にひとつの家がありました。その家は父親と母親と娘が住んでいます。今夜は母親がママ友達と演劇鑑賞会に行っているので、パパと娘でご飯を食べる事になりました。パパ特製のオムライスをたいらげながらテレビでは今日もニュースが流れています。言い忘れてましたが、パパの仕事はニュースを作る事です。それをふまえて娘がパパに質問しました。

「ねぇ、パパ。どうして今日も暗いにゅーすばかりなの?」
その質問は二度目でした。娘に再度質問されたと言う訳ではありません。今日の昼頃、部下に同じような事を問われたのです。お父さんの仕事はパソコン片手に記事を書く事でも、カメラを持って取材する事でもありません。作られたニュースをチェックしてそれを流すか否か、流すならどの程度の時間でどのタイミングで流すか、それを決めるお仕事――いわゆる上司という奴です。

お父さんが担当しているニュース番組で5分程の時間が空いたので、今年入った新入社員達を試す意味も兼ねて、時間を埋めるニュースを持ってこいと言いました。そして提出されたニュースにお父さんはすべてダメ出しをしました、つまらない。そう言い放って。殆どの社員が落胆する中、1人の青年が反抗しました。

「どこが詰まらないんですか?町内で長い間子供に恵まれなかった夫婦に子供が生まれた。その子の為に町内全員が祝福した。書店は子育ての本をプレゼントし、八百屋は沢山の野菜と栄養満点の料理を教えた。洋服店はよく似合う服を着せてあげて、薬局は紙おむつ等を送った。1人の赤ちゃんを町内皆が祝福した。この隣人の顔すらも知らない時代で、良い話じゃないですか。暗いニュースばかり流れているこの世の中で、救いのあるニュースだ。これのどこが詰まらないか教えてくれないと納得出来ません」

理由か、教えてやろう。父親はそう前置きして一言で結論を言い切りました。
「くだらねーんだよ」
呆気にとられている新人に向かって父親は尚も続けます。
「お前は一つ勘違いしてる。暗いニュースが流れているのは人々がそれを望むからだ。人間って奴はな、自分の不幸は大嫌いだが他人の不幸は大好きなんだよ。まさに蜜のようにな。もちろんお前の言う救いのある明るいお話も需要はある。暗いニュースの中にぽんと1つ明るい話題を入れる事で人は救われた気分になるんだ、ばかな生き物だよな。だが、それも一つで良いんだ。明るい話題ばかりだったら救いの効果が薄れるんだよ。そして明るい話題は最早決定している。二つ目三つ目の楽しい話題はいらない。お前等は明るい話題を引き立てる陰湿且つ残酷なニュースを拾ってくればいいんだよ。何も考えずにな」

新人は言葉が出ませんでした。そしてやっと、一言――1つの疑問を口にしました。
「…何の為の、ニュースなんですか?」
「決まってるだろ。視聴率の為、引いては俺の為だ」
きっぱりと言い放ち、父親はその場を後にしました。ちゃんとやって来いよ。そう、言い残して。別のお話になりますが、新人が止めようと思ったのはこの時が最初だったそうです。

父親が会議室を出た後に上司から話しかけられました。
「坂崎君、今週流す例のニュースは大丈夫?」
ええ、大丈夫です。満面の笑みで答えます。
「うん、スポンサーさんの初孫なんだからね。しっかり頼むよ」
それは子供に恵まれない夫婦が赤ちゃんを授かった話。先程の新人のニュースと似ていますが違いが二つ程。1つはもちろん赤ちゃんの家族は祝福したが、町内全てが祝ったという事実はない点。そしてもう一つはその夫婦の親がニュース番組のスポンサーであるという点。

新人のニュースを没にしたもっとも大きな理由は、単純にそれと似通っているからでした。だけど真実を言うべきではありません。ニュースが流れた時に新人が苦情を言ってくる可能性はありますが、それを撥ね退けるのが上司です。その為に多めの給料を貰っているのです。家族を養う為の給金を。

思い出は終わり父親は悩み始めます。幼稚園に行き始めたばかりの娘に視聴率云々の話をする訳にはいきません。人の本質を話すわけにはもっといきません。悩んでいるとテレビは別のニュースを流し始めました。脳死による臓器移植の話です。アナウンサーがとある言葉を言い、娘がその言葉の意味を尋ねてきました。
「ねぇ、ぱぱ。むしょうのぜんいって何?」
確かに幼稚園では無償の善意なんて言葉は教えないでしょう。もしかしたら小学校や中学校でも教えないかもしれません。父親は少し考えて娘に質問を投げかけました。
「なぁ、美雪はママのお手伝いを言われなくてもするだろ。それは何でだ?」
娘は当たり前の顔をして答えます。
「だってママがほめてくれるし、たまにお小遣いをくれるから~」
「だったら、ほめてくれなかったり、お小遣いをくれなかったらお手伝いしないのか?」
意地悪そうに聞くと美雪はう~んう~んとうなっています。
「誉めてくれるとか、お小遣いとか、そういう見返りを無しに純粋な気持ちで何かをする。それを無償の善意って言うんだよ」

娘は理解出来ないという顔をしています。
「すごいねー、みゆきにはできないかも…」
パパは答えました。
「うん、凄い人だ。パパにも、出来ないかも」
それは本心からの言葉でした。上司の言葉は全て肯定、部下のやることなす事全てにケチをつけては責任を押し付ける。失敗は全て部下のせいにし、仮に仕事を成功させたならば「俺のおかげだ」そう言って手柄を横取り。そんな自分にどうして善意という言葉が語れるでしょうか。そんな自分にどうして娘を教育する事が出来るでしょうか。

しょうがない、これが社会人ってなもんだ。
しょうがない、こうしなきゃ暮らしていけない。
しょうがない、こうしなきゃ妻と娘を養えない。

それは言い訳というよりも転嫁です。妻と娘を引き合いにして自分を正当化しているのです。家族の為と言いながら家族のせいにして自分を誤魔化す。そんな自分に嫌気がさしながらも、そんな自分で今日も生きていく。そして訳知り顔で娘に善意を教える。口を開こうとすると先に娘が質問をしてきました。

「ねぇ、ぱぱ。何で世の中には悪い人と良い人がいるの?」
恐らく先程までの陰湿なニュースとこの臓器提供のニュースを見て思った事なんでしょう。答えそのものは簡単です。暗い気分になった視聴者を癒した気分にさせるまやかしのトリック、そう言えれば良いのでしょうが、それだけは言う訳にはいきません。いずれ娘も真実を――社会を知るのでしょうが、せめて今の内だけはピュアな気持ちでいて欲しい。それだけは純粋なる本心です。父親は娘の問いに答えます。誠意を、気持ちを込めて。

「世の中にはね、いろいろな人がいるんだよ」
そう前置きして父親は娘に心を伝えます。
「この場合の色々ってのは、沢山の人じゃなくて。何色もの色って意味なんだ。黒い人や白い人もいる。赤く怒っている人もいれば、青く泣いている人もいる。ピンクに恋している人もいれば、オレンジ色に笑っている人もいる。世の中にはね、ほんと色々な人がいるんだ」

俺は何色なんだろうな、間違い無くキレイな色じゃない。濁った、汚い色。昔は輝かしい原色だったのに、年を取るごとに色んなモノが混ざり合って汚れていった。父親はそんな事を考えながら娘に色の種類を説明していると娘がきれいな瞳で言ってきました。
「ふ~ん、そっか。ならぱぱは…んーと、んーと…」
娘はしばらく考えた後答えを呼びました。
「ぱぱはね、お星さまの色」

何故娘は星の色という言い回しをしたのでしょうか。そんな疑問よりも分かり切っている事は自分にその色は相応しくないという事です。残念そうな顔をしながら娘に真実を教えます。
「美雪、パパはね。そんなにりっぱな人間じゃないんだよ」
娘はきょとんとした顔をしています。そして、名案を思いついたように返答しました。
「そーなの?…だったら~、りっぱになればいいじゃん」
脳天を鈍器で殴られたような気がしました。そうです、単にそれだけの事なのです。父親は思い出しました。昔似た事を言われた思い出を。それは娘の母親にでした。まだ2人の名字が一緒じゃなかった時代に【色々な人】の話をした時に彼女が言った言葉でした。

「確かに黒い人や白い人もいると思う。だけどさ、黒いままの人はいないし、白いままの人もいないと思うよ。黒い色が白くなったり、白い色が黒くなったりするんだと思う。現にあたしもさ、昔は冷たい蒼色だったけど、今は…ピンク色だもん…」
その後ピンクになった理由を詳しく尋ねたら、赤色へと変化して怒られたのは良い思い出です。

「黒くても汚れてても良いの、キレイな色になれば良いんだから」
「りっぱじゃないの?だったらりっぱなにんげんになればいいんだよ~」

耳を澄ませば思い出される2人の言葉。ああ、やっぱり母娘なんだな。そんな事を考えました。そして娘が星と思った理由を言います。
「だってぱぱの名前だもん」
パパは――坂崎星矢は涙ぐみました。娘の一言に、娘の気持ちに…そして昔母親から言われた名前の由来に。

「良いかい?あんたの名前星矢はね、夜を照らす星となって欲しい、暗闇を打ち抜く矢となって欲しい、そんな思いから父さんが名付けたんだよ。確かにこの世の中はどう見積もっても良い世の中とは言えない。毎日誰かが誰かを殺し、自分で自分を殺している真っ暗闇の世の中だ。だけどさ、そんな世界でもあんたは闇夜に輝く星のように暗い世界を照らして欲しい。世界全ては無理だとしても周りの人くらいは照らせるような小さな光る矢であって欲しい、そんな考えからお父さんはあんたに星矢って名付けたんだ」

妻の言葉、娘の言葉、母の言葉、気持、発言、愛情、親子、ありとあらゆる二文字が頭の中を巡り、ありとあらゆる二文字が心をかき回します。そして次に湧き出てきたのは疑問。俺は妻を、娘を、愛する者を照らせているのか?

娘は、微笑んでいました。
答えは、それで充分でした。

闇に照らされた夜空の中でそれを照らす星が一つ、抱きしめ合う家族が一つ、そして苦情が一つ。
「ぱぱー、くるしいよ~」


翌日の朝、前回のニュースを没にされた新人が同じニュースを持ってきました。
「坂崎さんの言っている事は理解出来ました。でも納得はしていません。俺はこれが良いニュースだと思っています。ちなみに昨日提出した原稿には漏れがありました。近所の酒店が父親には焼酎を、母親には野菜ジュースを送ったそうです」
書き加えた原稿を片手に力説しているその眼は澄んでいます。奇麗な原色の色でした。いずれこの目も様々な事を知って汚れていくのでしょうか。だとしても、せめて今しばらくだけはこのままでいさせてやりたい。それは上司としての親心、それはほんのわずかな小さな矢。

でも、そんな小さな光でも照らす事は出来る。それで充分じゃないか。それは娘が教えてくれた事。何だ、教えていたつもりが、教えられていたんだ。やっと、気付きました。大切な事に。そしてきっぱりと言い放ちます。

「やり直しだ」
一言だけ言うと部下は落胆した表情を見せます。
「誤字は多い、言い回しはなってない、こんなのをテレビの電波に載せられると思ってんのか?国語辞典片手に書き直してこい。話はそれからだ」
はいっ!新人は元気良く返事をしてその場を去ります。言い忘れた事がありました。それは文法上のミスでなければ語彙の不足でもない。昨日言った事の不足分です。

他人の不幸を笑って望むのが人間
でも
他人の幸せを笑って望むのも人間

新人は張り切りながら駆けて行きます。おうおう、元気でよろしい事だ。こっちはまた部長から小言を言われるかな。スポンサー様からもお怒りを喰らうかもしれない。まぁ良いさ。面白い物を放送しました、それだけです。そう言えば良い。たまにはそんな格好を付けても良いだろう。

ニュースというのは、視聴率の為――引いては俺の為なんだから。
ゴミゴミしているオフィスの中、窓からわずかな光が差し込んできました。そして照らします。部下を、自分を、心を。

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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