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第1話 後編


「それでは只今より諏訪川市連続殺人事件捜査会議を始めます」
さほど大きくない会議室に刑事、警官、婦警、お偉いさん、全てがひしめき合っている。これはこの事件が捜査部だけのものでは無いと言う事の証明でもあった。それほど重大な事件が起きはしない平和なこの街で5件もの連続殺人事件。しかも被害者に繋がりは見られない。となると連続無差別殺人事件という事になる。既に全国の新聞でも一報が報じられているし、署内の記者詰めスペースには東京や大阪からの記者だっている。これは諏訪川市だけの問題ではない。既に全国的な問題になっているのだ。普段デスクに座ってスポーツ新聞を眺めているお偉いさん達がこの会議に参加している事が何よりの証明であった。

高杉は後ろの方にひっそりと座る。前の方は刑事とお偉方で固められていた。後ろの方は捜査にそれほどやる気のない連中や事件とは直接の関係が無い捜査部以外の連中で占められている。もちろん高杉自身も例外ではない。

一番前では捜査部第1課、期待のルーキーと噂されている田代刑事がビジョンに捜査資料を映しながら事件の概要を説明する。こういうのは新人の役目であり、しかも期待されている新人でもある。自分も昔やったなぁ…そんな事を考えていると横に早川さんが座ってきた。そしてお世辞を言ってくる
「やっぱりお前は、こうして捜査会議に出るのが似合ってるよ」
「冗談はやめて下さい。今の自分は生活安全課の主任です。こうして捜査会議に出るなんて異例中の異例ですよ。命令されたから数年振りに出てはみたけど、こんなのはこれで最後にしたいですね」
2人してお喋りをしていると前の方から田代の声が聞こえてきた。

「最初の事件が起きたのは1週間前の5月27日。被害者は24歳の男性です。死亡推定時刻は27日の午後10時頃。現場は諏訪川市I町の2丁目付近にある路地裏。そこに被害者は…いました」
一瞬、田代の声が止まった。確かに止まる。田代は警察官からの呼び出しでその場に行って直接死体を見たらしい。きっと思い出してしまったのだろう。被害者が【いる】のではなく、【いた】という事を。
「被害者は両手両足がバラバラになっていました。それは切断されたという事ではなく、【もいだ】というべきでしょう。実際鑑札の堀口先生もこれは切断によるものではないと証言しております。何か巨大な力――例えば機械のアームで引き千切ったと言えば分かりやすいかも知れません」
横を見れば早川さんが真剣な顔をしていた。それはいつも冗談を言う壮年の顔ではなく、生涯を一刑事として捧げた――今も捧げ続けている男の顔だった。

「次の事件はそれから三日後です。被害者は18歳の女性。死亡推定時刻は5月30日の午後12時頃。現場は諏訪川市T町にある公園。この公園は街灯が壊れていて夜になると真っ暗になります。その為近所の住民も夜になったら近寄る事がありません。その為発見が遅れ、翌日の朝4時に新聞配達員が発見しました。被害者は前回同様手足がもがれていて…」

その次の言葉を田代は言い淀んでいた。当然だ、誰だって言いたくない。だが田代は意を決したように事実を口にする。それはこの事件を一躍全国区に押し上げた事実だった。
「被害者の女性は手足をもがれていて、その手足が体の中に突っ込まれていました。具体的に申しますと、両手両足が裂け、腹部に開いた穴から体内に無造作に突っ込まれていました。ちなみに死体の側には挿入するのに邪魔になったと思われる内臓が無造作に置かれていました」
ガタッと音がし、婦警が席を立って部屋の外に飛び出した。当然だ、こんな話誰だって気分が悪くなる。自分だって初めて話を聞いた時には酔ってもないのに吐きそうになった。

「そして次の日には3件目。被害者は…9歳の男の子です」
会議室に張りつめた空気が充満する。警官や刑事と言っても所詮は職業の1つだ。ヒーローになりたいと心の底から思っているような奴ばかりとは言えない。それでも、だとしてもだ、8歳の男の子が虐殺されて犯人がのうのうとこの街を闊歩していますと言われて、ヘラヘラ出来るような奴はこの会議室にはいない。高杉としても例外ではなく、全員の思いは今一つとなっていた。

絶対犯人を捕まえる。こいつだけは許さない。全員が決意を新たにしながら田代の言葉に耳を傾ける。

「現場はH町2丁目にある広場です。ここは元々あった民家が売却され取り壊された為に空き地となっていました。街灯は無く草が生い茂る広場です。解体用の資材が積まれていて見通しが悪く、少年はドラム缶の中に放り込まれていました。被害者の男の子は前回同様達磨状態。両手は口の中に、両足は開けられた腹の中に、それぞれ混入されていました。」

捜査員全員が言葉を無くしていた。8歳の男の子が殺された。しかもこれ以上ないというべき残虐な方法で。如何なる理由があろうが――否、そもそも10年も生きていない子供を、殺すに値する理由などあろうはずもない。この事件の捜査をする動機は仕事だからとか給料を得る為とかではない、全員が覚悟を決めた。捕まえるという決意を。田代も同じ気持ちだったのだろう。強い口調で捜査ファイルを読み上げる。

「この事件をきっかけに犯行はエスカレート。一日一件だった殺害が日に日に増えていき、一日に2件もの殺害が行われる日も出てきました。そして今日、11件目の殺害――被害者は40歳の男性です。今まで同様手足を体内へと移動された上で虐殺されています」
「田代、ちょっと良いか?」
鬼瓦が手を上げて発言する。
「今日で11件もの殺害が確認されている。これ…全て同一犯人だと思って良いのか?余りにも被害者に接点が無さ過ぎるんだよ」
それは捜査員全員が思っている事であった。青年、女性、男の子、中年。被害者に繋がりが無さ過ぎる。こういう異例な事件が起こると模倣犯や便乗犯が出てくる事が往々にしてある。異常な犯人に便乗して殺したい奴を殺そうという訳だ。後はその犯人に憧れて自分もやってしまったという模倣犯だ。だが田代はどちらのケースも首を振った。

「その件については捜査部1課について話し合いましたが、同一犯という事で結論が出ています。理由としては手足の断裂とそれを体内に挿入しているという事実です。11件全てが切断というよりまさにもがれたという処理をされています。ちなみに皆さんご存じのとおり、手足が体内に挿入されているという事実は新聞やニュースには流れていません。模倣犯に便乗させないように且つ余りにも異質なので記者へと口止めしているからです。以上の事実からこの11件、捜査部1課は全てが単独犯だと考えています」

尚悪い、鬼瓦がぼそっと呟いて席に着いた。高杉も同じ気持ちであった。人を殺す人間には2つのタイプがある。殺しに理由があるタイプと、無いタイプだ。もちろんどちらも許される事ではないのだが、この世知辛い世の中、殺したい奴だっているし殺されても文句無い奴だっている。もちろん殺されて欲しいと願っている奴だっている。だけどだ、理由なく殺す事だけは許せない。それ相応の理由があれば殺しても良いとは口が裂けても言えないが、さしたる理由も無く【なんとなく】人を殺す奴だけは許せない。そう思っているのは高杉だけではない。隣に座っていた早川さんも、黙って腕組みしている鬼瓦も、普段はちゃらちゃらしている島田も、全員が同じ気持ちになっていた。

絶対、逃がさねぇ。

「とにかくだっ!」
手をパンッと叩いて立ち上がった者がいた。捜査部部長の浜口さんだ。早川さんと同期入社で凌ぎを削った仲と言われている。その捜査能力、人望、部下の面倒見、全てにおいて上司に求められる最大限の力量を所持している。うちの斉藤課長とは偉い違いだが、そこは言わないのが大人ってもんだ。

「これ以上の被害者を出すわけにはいかない。もちろん我々の仕事は犯人を捕まえる事だが、諸君にはこれ以上この街の人を死なせる訳にはいかない、そんな気持ちで捜査に望んで欲しい」
そして浜口部長は神妙な面持ちで一言付け加えた。
「一つだけ言っておく。所詮我々はサラリーマンだ。給料を貰って仕事をしている。だけどだ、この街を護るサラリーマンだ。頼むぞ、皆」

それだけで十分だった。全員がガタッと席を立って会議室を出る。犯人を追いかける者、聞きこみに回る者、それぞれの立場こそ違えど全員の思いは1つに集約されていた。たった1つの目的の為に皆が外へと飛び出す。もちろん高杉といえど例外ではない、住民への防犯指導が主な仕事だが、それでも皆を護るという事に変わりはないのだ。斉藤課長に今の仕事の報告とこれからの予定をおおまかに話して、決意を新たに警察署のドアを飛び出した。


その少女に出会ったのは、決意を固めた数分後の事だった。太陽が沈みかけ夕焼けが空半分を占めている時刻、公園のブランコに1人揺られていた。それは小さな女の子だった。肌の色は白く、大きな一重の目。髪は腰まであるロングヘアーで、背は山田君より少し小さい程度。赤色のワンピースがよく似合ってた。歳は10歳前後、3件目の被害者と同じ位の年齢に感じられた。そう思うと急にこの子が心配になってきた。

その女の子はただ1人無表情でブランコを漕いでいる。誰かと遊んでいたようには見えないし、誰かを待ち合せているようにも見えない。行き場の無くなった大人が講演や駅のベンチで佇んでいる。そんな風景を連想させた。ブランコにそっと近づき、その子に話しかける。

「お嬢ちゃん、こんな時間まで一人遊びしていたらあぶないよ。早くお家に帰らないと」
そう言えば帰ると思っていた。もしくは大丈夫だよと生意気な返答が返ってくると思っていた。しかし返ってきた言葉はどちらの予想からも外れていた。
「お家?何それぇ?」
家は家としか答えようがない。まさかこの年でホームレスという訳でもないだろう。服はきちんとしているし、身なりだって奇麗だ。高杉は少女に家の意味を教えてあげる。

「家は…んーとね、家族が待っている場所だよ。お嬢ちゃんにもパパやママや兄弟がいるでしょ」
「うん、お姉ちゃんがいるの~」
「なら早く帰らないと。家族が心配しているよ」
「多分してないよ。お姉ちゃんはわたしを殺そうとしてるから」
高杉も兄弟喧嘩はした事がある。3つ上の兄貴に向かって殺してやるなんて叫んだ事もある。しかしそれは感情の爆発により口から出てしまったというのが正しい。その後親から泣くほど怒られたし、さすがに言い過ぎたと反省している。だが、この子は、冷静に当たり前のようにその言葉――決意を口にした。

「だからさ、あたしもお姉ちゃんを殺すの♪」
それは笑顔で、軽やかに、まるでちょっとそこのコンビニまで行ってくるというように。高杉はその時初めて恐怖を感じた。言葉で表現するならば純粋なる狂気とでも言うのかもしれない。この後高杉は感じた恐怖を実体験するのだがそれはまた別のお話になる。高杉はその子の前にしゃがみこんで優しく、強く、諭した。
「良いかい?殺すとか殺されるとか言ったらだめだ、何があってもだ。言葉ってのは意外と強い力を持っている。冗談交じりに言った事が本当になってしまう事だってある。軽い気持ちで言った事でも重大な結果になったり、思いもよらない事態を引き起こす事だってある。だからさ…言うな。殺すとか、死ねとか。絶対に、言うな」

高杉は本気で言っていた。それは過去にいる自分へ言い聞かせているようだった。もう二度と取り戻せない日々、もう二度と取り戻せない人。後悔しても後悔しきれない出来事。だからこそ、こんな思いを味わって欲しくない。その一心でこの子を説得した。少女はちょっと考えて返事をしてきた。
「分かった、おじさんがそんなに言うんなら言わない」
「良かった、約束だよ」
「うん、約束~」

その子は小指を差し出してきた。白く、小さい指だった。高杉も小指を差し出す。自分のはゴツゴツして肌が荒れた指だった。彼女は柔らかて折れそうな儚い指だった。2人の小指が絡み合う。
「指きりげんまん、嘘吐いたら針千本飲~ます♪」
2人仲良く声を合わせて指を離した。
「それじゃあ、あたし行くね」
「待って、君は何という名前なんだ?」
その言葉に他意は無かった。もちろんナンパとかそういう意味じゃない。純粋にこの子の事が気になっただけだ。その理由は分からなかった。だが、もしそれを言語で表現するとしたらこうなるのだろう。刑事としての勘。しかし、現時点での高杉にはそこまで考えが及ばず、単に心配で名前を聞いただけであった。少女はにこっとして名前を答える。

「あたし?あたしは【みう】、三日月みう」

三日月だけが全てを見ていた。
全てを見ていたのは、三日月だけ。

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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