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うたかた 第2話 後編


沢田理子は男を見つめていた。そして武田ローンの2人が見えなくなってから、やっと笑顔になって男の名を呼んだ
「ありがとうございます、高杉大樹さん」
「いえいえ、これが仕事ですからね」
「でもあの人も間が抜けてますね。自己破産したら消費者金融でお金を借りられる訳が無いのに」
沢田理子は笑顔で新城をばかにしてたが、大樹はそう思ってはいなかった。恐らく、あいつは全て分かった上でまたのご利用をお待ちしていますと言ったのだ。自分達の芝居を見抜いている事。そしてこの女性がこの危機を乗り越えたにも関わらず、またもや同じ失敗を繰り返して借金をするという事を。
「あの人の、名前は分かりますか?」
「ああ、確か新城さんって言ってましたよ」

高杉大樹の時間が止まる。新城。その名前には聞き覚えがある。母親を殺した名だ。高杉大樹には2人の母親がいる。今現存している便宜上の親と。最早この世にはいない自分を生んでくれた真の親だ。前者はどうでも良い。後者は自分が一番大切にして【いた】人だ。高杉大樹は本当の母親の事をあまり知らない。物心付いてからは母親にべったりで、そういう意味での思い出は何でも覚えているが、自分が生まれる以前の母親の生活をあまり知らなかった。聞いても教えてくれなかったというのもある。だが、親類に聞いてやっと最近分かりかけてきた。

沢田理子から報酬を受け取り家への帰路へ歩く。歩きながら母の事、義母の事、そして未だ見ぬ父親と、この世で一番憎んでいる父親の事を思い出していた

高杉大樹の母親、折田美咲は早熟な女性であった。高校生の時に大樹を身籠った。そして相手の男は責任と言う二文字を放棄してそのまま立ち去った。その後折田美咲は大学進学を諦め女手1人で大樹を育ててくれた。そして大樹が中学生になった頃折田美咲の名前は高杉美咲になった。そして僅か一か月で高杉美咲はこの世を去った。原因は誰に聞いても教えてくれない。ただ新城組という暴力団が関わっている事だけは分かった。そして高杉信也が母親を見殺しにしたという事も分かった。

高杉大樹が高杉信也を憎んでいる点は二つある。1つは母親を見殺しにした点。そしてもう一つは父親顔する点だ。高杉美咲が無くなった際、高杉大樹は折田性に戻ると思っていたし、それを望んでいた。ところが高杉信也は大樹は自分が引き取ると言い放ち父親顔をしてきた。そして母さんが死んで一年も経たない内に新しい母親と再婚した。新しい母親は自分には無関心だし――当然だ、自分の子供じゃないんだから。父親は父親で息子の事はほったらかし。そして最近巷を騒がせている殺人鬼に熱中している。

くそったれが…!自分が何に苛立っているのか分からなかった。無関心な母親か?何もしてくれない父親か?それとも最早いない母親への未練か?何に不満をぶつけて良いか分からず、目の前の石ころを蹴り飛ばした。宙に浮いた石ころはそのまま飛んで行き角から現れた歩行者に当たりそうになった。しかしその人は何事も無かったかのように簡単に小石を片手でキャッチした。
「あぶないな~、俺以外だったら当たってたぜ」
高杉大樹はその男を見つめて敵意ある視線を向ける。そして詰問口調で話しかけた。
「あんた、確か新城さんだったな」
「あれ?おかしいな、あのお嬢さんならともかく君に名乗った記憶は無いんだが」
「依頼者が教えてくれたんだよ。ああ、こんな言い方したらバレるかな?」
「【全部分かってる】のはこっちだけじゃないようだな。お互いに芝居が下手だねぇ」
「1つ聞かせろ、何で見逃した?」
「借りを返したかっただけさ」
「借り?あんたが?俺にか?」

「直接的な借りじゃないんだ。正確にはあんたの親父――高杉信也さんへの借りだ。直接親父さんに返せば良いんだが、中々あの人も多忙でな。会う暇が無いし、借りを返す暇が無い。その上こちらも見ての通り叩けば埃が出る身だからな。あんまり会いに行けないんだ。それならば息子に返してやろうと。こういう訳」
「ちょっと待て。何で親父の――俺の事を知ってる?」
「こんな商売をしていれば色々な情報が入ってくるんだよ。刑事の息子の顔とか、最近諏訪川市で話題の高校生探偵の顔とかな」

「それで芝居を見逃したってわけですか」
「奇麗な女性の前でカッコを付けられる。借りを返すには十分だったろ。どうだ、ヒーロー気分を満喫出来たかい?」
「ああ、十分過ぎる程味わえましたよ」
「そうか、それは良かった。それなら…次からは遠慮しないよ。うちの金子が思いのほか君の事を気にいっていてね。早く会って借りを返したいと息巻いていたよ」
「男からのラブコールを喜ぶほど奇特じゃないんだけどな。まぁ良いや。返り討ちにしとくと伝えといてくれ」
「伝えとくよ。それじゃあ、ごきげんよう」
「ああ、二度と出会わない事を願っていますよ」

2人が別れた後、道端の角から金子が出てきて新城に話しかける。
「兄貴、あいつは何者なんです?」
「諏訪川市きっての刑事の息子さんであり、俺の弟だ」
「弟分みたいなもんですか?」
「ふっ、まぁそういう事にしとこう」
その時電話が鳴った。
「はい、新城でございます。ええ、あの件ですか?はい、立ち退きは順調に進んでおります。ええ、今や諏訪川市は殺人鬼が跳梁跋扈する街ですからね。ちょっと小銭を払っただけでほいほい出ていく奴がいて殺人鬼様々って所ですよ。ええ、Tブロックももう少しで完全に手に入れる事が出来ます。はい、来月末には仕上げますので、もう少しお待ちください」
電話を切る、新城がこれからの予定を考え込んでいると金子が心配そうな顔で話し掛けてきた。

「地上げの話ですか?」
「ああ、Tブロックの立ち退きをもっと早く出来ないかってよ。全くクライアントってのは無茶ばかり言って肝心の手段はこっち任せだからな。嫌になるよ」
「でも件の殺人鬼のおかげで本当に仕事が楽になりましたね。全く、兄貴も運が良いや」
その言葉に新城はきょとんとした表情で返事をした。

「お前、これが偶然だと思っているのか?」
「え?兄貴…それはどういう意味ですか?」
「質問に質問で返すのはどうかと思うんだが、まぁ良いや。金子。お前、今恋人はいるか?」
「恋人って言うか…微妙な感じの女ならいますね」
正確に言えば恋人でもなければ、微妙な感じでもない、単に飲み屋のお姉ちゃんに金子が熱を上げているだけで、良い様に金を搾取されているというのが真実のなのだが知らぬは本人ばかりなりとはよくいった物である。そんな金子を新城は見つめながら忠告をしてあげる。

「そうか、それならそいつに伝えとけ。この街を早いとこ出た方が良い。この街はこれから火の海になる」
「兄貴、それはどういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だよ。正確に言えば【火の海にする】だがな」
「さっき俺には暴力沙汰は厳禁だと言っていたのに、兄貴も人が悪い」

「確かに暴力沙汰は厳禁だぞ。だけどな、これは暴力なんて可愛いもんじゃない。言うなれば…殺戮だ。秩序と目的を達成する為の虐殺は認められているんだよ。俺の神にはな。ただ…今はしゃぎ回っているお子様は羽目を外し過ぎだ。因って手綱を引締めに2人ほど来るんだよ。俺は明日その2人を迎えに行ってくるから、いつもの取り立てはお前に任せたぞ。後な、俺はお前の事を買っている。頭は多少足りないかもしれないが、腕っ節は強いし度胸もある。だから言っておく、これから先夜道を歩く時は注意した方が良い。…というか死にたくなければ日が沈んでから外には出るな。この前ライオンが動物園から出て避難警報が街中に出たろ。あのレベルだと思え。いや、むしろそれ以上だな。少なくともライオンは腹が減ってなければ人は殺さない。だが、あのガキは意味も無く命を刈り取るからな」
「ガキ…?兄貴、犯人を知っているんですか?」
「詮索し過ぎは命を縮めるぜ。それじゃあな」
新城はそう言い残して金子に手を振った。


高杉大樹がその少女に出会ったのは、新城と別れた数分後の事だった。太陽が沈みかけ夕焼けが空半分を占めている時刻、公園のブランコに1人揺られていた。それは小さな女の子だった。肌の色は白く、大きな一重の目。髪は腰まであるロングヘアーで、背はそこら辺の小学生程度。青色のワンピースがよく似合ってた。歳は10歳前後であり、最近巷を騒がせている殺人鬼や小さい子が犠牲になるニュースを思い出してこの子の事が心配になってきた。

その女の子はただ1人無表情でブランコを漕いでいる。誰かと遊んでいたようには見えないし、誰かを待ち合せているようにも見えない。行き場の無くなった大人が講演や駅のベンチで佇んでいる。そんな風景を連想させた。ブランコにそっと近づき、その子に話しかける。

「お嬢ちゃん、こんな時間まで一人遊びしていたらあぶないよ。早くお家に帰らないと」
そう言えば帰ると思っていた。もしくは大丈夫だよと生意気な返答が返ってくると思っていた。しかし返ってきた言葉はどちらの予想からも外れていた。その子はきっぱりと返答してきた。
「帰る家?そんなの無いよ」
高杉大樹は面食らった。まさかこの年でホームレスという訳でもないだろう。服はきちんとしているし、身なりだって奇麗だ。大方少女が親と家出して衝動的に家出してきたという所だろう。ここは年長者としてきちっと話さなければ。

「君には帰る場所が無いの?違うでしょ、あるでしょ。おかえりって言う場所だよ。お嬢ちゃんが心から安らげる場所」
「安らげる…場所…」
そんな言葉を初めて聞いたかのようにその子は同じ言葉を口にした。
「早く帰らないと。家族が心配しているよ」
「誰もしてないよ。家族っていえるのはお姉ちゃん位だけどあたし苦手だな」
「何で苦手なの?」
「ん?殺されるから」


高杉大樹も兄弟喧嘩はした事がある。本当の兄弟はいなかったが、昔本当の母さんが生きていた頃に家に遊びに来ていた近所のお兄ちゃんがいた。この年ごろの子供なら当たり前の事だが、いつもいつも仲良しという訳ではない。おもちゃの取り合いやお菓子の争奪戦、火種は多種多様にある。ある日の事だ、その最後に残ったチョコの取り合いの末に殺してやるなんて叫んだ事もある。しかしそれは感情の爆発により口から出てしまったというのが正しい。その後親から泣くほど怒られたし、さすがに言い過ぎたと反省している。だが、この子は、冷静に当たり前のようにその言葉――決意を口にした。

「だからね、あたしもお姉ちゃんを殺すの」
それは笑顔で、軽やかに、まるでちょっとそこのコンビニまで行ってくるというように。高杉はその時初めて恐怖を感じた。言葉で表現するならば純粋なる狂気とでも言うのかもしれない。この後高杉は感じた恐怖を実体験するのだがそれはまた別のお話になる。高杉はその子の前にしゃがみこんで優しく、強く、諭した。
「良いかい?殺すとか殺されるとか言ったらだめだ、何があってもだ。言葉ってのは意外と強い力を持っている。冗談交じりに言った事が本当になってしまう事だってある。軽い気持ちで言った事でも重大な結果になったり、思いもよらない事態を引き起こす事だってある。だからさ…言うな。殺すとか、死ねとか。絶対に、言うな」

高杉大樹は本気で言っていた。それは過去にいる自分へ言い聞かせているようだった。もう二度と取り戻せない日々、もう二度と取り戻せない人。後悔しても後悔しきれない出来事。だからこそ、こんな思いを味わって欲しくない。その一心でこの子を説得した。少女はちょっと考えて返事をしてきた。
「分かった、おじさんがそんなに言うんなら言わない」
「おじさんってのは酷いな。まだ18歳のお兄さんだよ。よ~し、約束だ」
「うん、約束」

その子は小指を差し出してきた。白く、小さい指だった。高杉大樹も小指を差し出す。自分のはゴツゴツして肌が荒れた指だった。彼女は柔らかて折れそうな儚い指だった。2人の小指が絡み合う。
「指きりげんまん、嘘吐いたら針千本飲~ます♪」
2人仲良く声を合わせて指を離した。
「それじゃあ、あたし行くね」
「待って、君は何という名前なんだ?」
その言葉に他意は無かった。もちろんナンパとかそういう意味じゃない。純粋にこの子の事が気になっただけだ。その理由は分からなかった。だが、もしそれを言語で表現するとしたらこうなるのだろう。父親から受け継いだ刑事としての勘。しかし、現時点での高杉にはそこまで考えが及ばず、単に心配で名前を聞いただけであった。少女はにこっとして名前を答える。

「あたし?あたしは【れな】、三日月れな」
そして別れ際、れなは楽しそうに誘ってきた。
「お兄さん。今度、遊ぼうね」
それは楽しそうに、それはお人形遊びをするかのように。それは無邪気な子供が虫を捕まえて、笑顔で脚を引き千切るかのように。

三日月だけが全てを見ていた。
全てを見ていたのは、三日月だけ。



この日四人の男女が出会った。
刑事と追う者、息子と追われる者。
捕まえる者と殺す者。護る者と殺される者。

この四人が出会うのは先の事であり、
この四人の中から三人が消え去るのはもっと先の事である。
ただ、それは驚くほどあっという間に訪れる。
それはうたかたのように。それは、うたかたのように。

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No title

読みました!
いよいよ役者が揃ってきましたね!
先の展開が気になって仕方が無いです。
大樹君美少年設定有難う御座います!そしてご馳走様です!(笑
続き楽しみにしてますね!

これ以上キャラは出さない(予定)です

本当は3話目から話を進めて行こうと思ったんですが、新聞であの記事を読む&やっぱり記者役はいるよなと考えた結果、こうなりました。

次回から動き出す・・・はず?
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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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