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第3話 後編

「どうした限、えらくノっていたじゃないか。良いのが出来たか?」
目の前ににゅっと中さんが咥え煙草で現れた。編集部内は禁煙だが、厳密には吸ってはいないし、火を付けた所で中さんに注意できるのは部長以上の役職じゃないと無理だろう。とは言え、中さんのは咥えているだけであり、火を付けたのは見た事無い。
「今更だが健康に気を遣いだしたよ。でも何か口に入れてないと落ち着かないんで咥えているだけな」一昨年の忘年会でそんな事を言っていた。
「あら、お久しぶりです。退職してもここに来るなんてよっぽどお暇なんですね」
仲嶋だって一応は社会人だ。目上の人に対する口の利き方は知っているし、元と言えど上司に対する礼儀はわきまえている。それでも中さん――おやじは別格だ。この編集部内にいる全員がそう思い、そう行動していた。
「連れない事言うなよ。何だかんだで家でテレビと顔合わせているより、ここでお前等とど突き合っている方が長いからな。やっぱりここが落ち着くんだよ。どうせ残り短い人生だ、最後くらい好きにさせてくれや」
「大丈夫ですよ、憎まれっ子世にはばかるって言うじゃないですか」
中さんは怒った振りをする、皆は笑いだす、これがいつもの編集部だ。いつも通りのコントが終わった後、中さんがふと自分の原稿を見た。
「仲嶋。お前、これ…」
「ああ、これは来月号の特集で少年審判に対する記事なんですよ。それが今…」
書きあがった所です、そう言おうとしたが言葉を発する前に胸ぐらを掴まれた。そして中さんの顔が息の掛かる位近づく。
「お前、これは何だ?」
「え?だから…これは今度特集する…」
「そんなのは分かってる。俺だって記者の端くれだ。一目見りゃどんな記事くらい判別が付く。俺が言いたいのはこの書き方は何だ?って事なんだよ」
ぐいっと襟元を絞り上げられ恫喝される。周りはおたおたしていた。出た、鬼の中さんだ。中将弘は温和な人物だ、部下が自分に迷惑を掛けても大丈夫と励まし、心無い人から悪口を言われたってそれを冗談と受け流す性格である。しかしそんな中さんが阿修羅の如く憤慨する事がある。

【くそ】な記事を書いた時だ。

「【くそ】な人間なら良い、良いんだよ。四六時中善人でいられるのは不可能なんだから、どうしたって不機嫌な時や意地悪な時がある。だが【くそ】な記事はダメだ。俺達はプロだからだ、記事を書いて金を貰っている以上、低レベルなものを書くのは許されない、例え締め切りが寸前に近付いていたとしてもだ。期日よりも品質を優先させる奴なんてのはプロじゃねぇ。そんなのはアマチュアであり、同人誌でもちまちまやっていれば良いんだよ。期日は守る、品質も高レベルを維持する。両方やるのが…プロだ」

酒に酔って説教めいた話をするタイプは意外と多い。中さんもそのタイプであり、居酒屋で午前4時に言われた言葉を思い出した。
「仲嶋、俺が何故怒っているか分かるか?」
さっぱり分らない。教え通り導入部分に気を遣い、内容も分かりやすく伝えた。そして結論だって…
「そこなんだよ」
中さんは自分の心を見透かしたようにきっぱりと言い放った。
「何だ、この最後の一文は?」
そう言って指差された文章は記事の最後を締めくくる言葉だった。

【この法案改正により被害者遺族に新たな真実を伝える事が出来るが、被害者に新たな心の傷を負う可能性もある。これは大きな一歩の前進だが、これ以外にも事件の動機や背景を知る別手段を説明する事が不可欠】

「お前、これ新聞の受け売りだろ」

図星だった、新文弥ネットでの意見を自分なりに味付けした物だが、大本は他人の声であり、そこに自分の言葉は無い。
中さんはぎりりと自分の首を締めながら記者の定義を教えてくれた。
「仲嶋、俺達の仕事は伝える事だ。思いを、言葉を、気持を、伝える事だ。だけどそれは【自分の言葉】ってのが大前提なんだよ。他人の受け売りをそのまま喋るだけなら意味はない。お前、これが何なのか分かっているのか?」
そう言って中さんが示した先には【文責 仲嶋限】と書かれていた。
「これはおめぇが書いた文ですって事だろ。なのに肝心のお前さん自身が他人の言葉を借りて文章を書いてどうするんだよ?」

「だけど、何も浮かばなくて…」
言い訳と言うよりもそれは純粋な事実だった。だからこそ新聞の言葉を適当に味付けして模写したのだ。中さんはそんな自分を見て溜息を吐きながら一事で言い切る。
「それならそれで良いんだよ」
鬼の顔から指導者の顔になり、いつもの中さんが指導してくれる。
「確かにこれは難しい問題だ。結論を出せと言っても難しいかも知れない。現に偉い学者さんや弁護士の先生んが集まっても結論が出てねぇんだからな。ところでだ、お前さんはこの問題に結論が出せるほど偉いのか?そうじゃねぇだろ」

だからさ…そう前置きして中さんは結論を言ってくれた
「何も無いなら何も無いで良い。無理に自分が固めた結論を押し付ける事も無い。何かを伝える事も大事が、【何かを考える事】を伝える事も大事だと思うぜ。問題提起って奴だな」
締切はいつまでだ?中さんはデスクに尋ねると1週間という答えが返ってきた。そしていつもの優しそうな顔で励ましてくれる。
「後1週間あるんだ。ゆっくり考えなよ。お前さんなりの答えを、無ければ無いで良い。その時はその時思った事をそのまま書けば良い。【お前さんの言葉】でな。それでデスクが文句付けるようなら俺のトコにもってこい。ねじこんでやるよ」

中さんには敵わねぇなあ。高田デスクは机に肘をつきながら微笑んできた。

後、1週間。それがこの記事の締切であり、仲嶋に与えられたタイムリミットだ。仲嶋限にとってこれからの1週間は人生で最も密度の濃い1週間になる。しかしそれを仲嶋限が知る由は無い。【繋がり】という言葉の意味をこれから先の7日間で身をもって体験する事になる。

親と子の繋がり
姉と妹の繋がり
追うものと追われる者の繋がり
殺すものと殺される者の繋がり
少女と世間の繋がり
犯罪と世間の繋がり
そして…命と命の繋がり。



仲嶋限は知らない。
単なる仕事だと思っていたこの法律が後々自分にのしかかってくる事を。
仲嶋限は知らない。
いずれ自分が日本中を騒がせる事件をスクープする事を。
仲嶋限は知らない。
いずれ自分が加害者となり、被害者となる事を。
そして、それはすぐに訪れる。そして、すぐに消えさっていく。

それは…それは…

ウタカタの夜をかく語りき

そして、物語が動き出す。

少年審判の被害者傍聴
2000年の少年法改正で、法廷での意見陳述制度や審判結と果の通知制度が導入。今年6月の改正では、加害少年が12歳以上で、被害者が死亡するなどした重大事件について、遺族らの審判傍聴が認められた。事件の背景なども考慮して家裁が可否を決める。傍聴人は弁護士らを付き添わせる事も出来る。被害者の申し出があれば、家裁が審判内容などを説明する制度も新設。事件記録の閲覧やコピーの範囲も、成人事件と同程度に拡大された。




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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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