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うたかた 4話 前編

日曜日  其の壱

~Crawling In The Dark~

「日曜日ってのは休む日じゃなかったっけ?」

諏訪川港の周りを飛んでいるカモメを見ながら早川四郎は近くの警官にぼそっと呟いた。
「本当ですよね。本官なんてもう2週間も休みなしで働いていますよ。先日妻からたまには休んで家事をしてよと怒鳴られる始末です」
「怒られる内はまだ大丈夫。何も言わなくなってからが黄信号だぜ。後な、2週間ならまだ大丈夫だ。ちなみに俺はもう1ヶ月休んでない」
「為になるアドバイスありがとうございます。後、早川さんは働き過ぎですよ」

警官にお礼と忠告をされながら早川四郎は周りを見渡す。目の前には工業用水に汚染された海、後ろには船から降ろされた貨物を積み込むコンテナ、そして周囲には自分達によって貼られた立ち入り禁止の黄色いテープ。眼前の海中からは先程【人間だったもの】が運び込まれたが、目をつぶれば今にも暗い海の中に【それ】が浮かんでいた様子がありありと思いだせる。

「うっ…海で釣りをしていたら…うううう…海に…ひ、人が…」
科学は進歩したもので、近所の公衆電話から掛ければ相手が言わなくても大体の場所は分かる。科学と同時に我々の仕事も進化し、通報の電話から10分も経たない内にパトカーが諏訪川港を占拠していた。科学であれ仕事であれ進歩するのは良い事だが、それは同時に人の働く時間の増加も促したのではないかと早川四郎は考えていた。我々の働きによって【それ】は到着した警官によって引き上げられ、監察医の元へと運ばれている。後に残ったものは残骸だけだ。

「そんなに愚痴るんなら来なきゃ良かったじゃないですか。無理やり出動しようとするパトカーに乗り込んだのは早川さんでしょ」
高杉信也はそう言いながら、近くの自販機で買ってきた緑茶を早川四郎に手渡す。昔ならコーヒー――しかもブラックを渡していたが、最近胃の調子が悪くなってきてなぁとぼやく早川さんのお気に入りはI工業の緑茶だ。そして高杉はカフェオレのプルトップを外して早川と共に暖を取る。

「どうせ署にいても書類仕事をやらされるか、浜口の詰まらないゴルフ談議に付き合うしかないんだ。それなら現場に来た方がまだ気が晴れる。ところで、お前さんは何で来たんだ?生活安全課こそこの事件とは無関係だろ?」
「…そう願いたいんですけどね」
「やっぱりお前もそう思うか」

2人の言葉はそこで止まった。言葉が【無い】のではなく、言葉が【出ない】のである。思う事はある、言いたい事もある。しかしそれを口にするとそれを認めてしまう気がするからだ。諏訪川港の朝8時、カモメの鳴き声だけが響いている状況でもう1人の声が聞こえてきた。
「これで15件目ですかね」
高杉と早川が後ろを振り向けば、田代が所轄の警官をひきつれて現場に来ていた。
「高杉さんも早川さんもそう思ったからこそ、朝早くからここに来たんでしょ?」

高杉も早川もその質問には沈黙と言う答えを示した。それは答えたくないというより、答えられないという方が正しかった。早川さんは胸ポケットから煙草を取り出すとライターで火を付けて一服する。そして煙をふぅっと吐き出しながら自分の考えを口にした。

「最初はそう思っていたよ、例の事件だとな。だけどな、今はどうも妙な感じがする。高杉、おめぇさんはどうだ?」
「俺も早川さんと同意見です。確かに最初は例の事件だと考えていました。だけど、これはどうも変だ。今までとは違う」

正直田代は2人の意見に戸惑っていた。2人ともこれはあの殺人鬼の仕業と考えていると思っていたからだ。この思考の差は実際に現場を見ているか否かという事に起因する。高杉と早川は現場へ一番乗りし被害者の姿を直接見ている。それに対して田代は警官から話を聞いただけで直接被害者の様子を見た訳ではない。この差が思考の差となり結論の違いを導き出した。3人があてもなく海を眺めていると、連絡を受けた警官が走り寄って被害者の詳しい状況を報告してくれた。

「先程監察医の骨川先生から被害者の死因が特定できたと連絡がありました。後、被害者の身元が判明しましたので共に報告します」
警官が言うには、被害者の名前は芥川宗助28歳、諏訪川市で眼鏡店を経営している男だ。全身を斬り刻まれての絶命。死亡してから海に投げ込まれたのか、海に投げ込まれて死亡したのか若干の争いがあったが、検死の結果殺されてから海に投げ込まれたという事が分かった。

高杉信也はある一点においてこれは件の殺人鬼と違うと確信していた。それは早川四郎も同意見であるらしく2人揃って同じ言葉を口にした。
「斬り刻まれてるって点だな」
「確かにそれはありますね。今までは遺体を引き千切っていたのに、今回は切り刻んでいる。この差は見過ごせません」
田代が2人の意見に同意した瞬間に早川さんの携帯が鳴った。
「はい、早川です。はい、はい、は?…分かりました。今すぐ戻ります」
電話を切って早川さんはため息をつきながらぼやく。
「全く浜口さんは人使いが荒いよ。今すぐ戻って来いってさ。後骨川先生からの報告がもう一件増えた」
早川さんは追加事項を口にした。それはこの事件が件の殺人鬼と違う事をほぼ徹底的に確定させた事実だった。

検死の結果、遺体は殺されてから切り刻まれたものと分かった。

その事実は三人の口をつぐませた。殺してから遺体を切り刻む。意味が無い行為なのだ。無論死体をバラバラにして隠したり、持ち運んで山奥に捨てたりする場合は効果的なのだろうが、この場合は当てはまらない。捨てられているとはいえ、港の波打ち際へ無造作に捨てているという表現の方が正しいからだ。波打ち際に打ち上げられた空き缶やコンビニのポリ袋、それらと同等のレベルで【それ】は捨てられていたのだ。

つまり死体を意味も無く切り刻んだ可能性が非常に高い。どうしようもない事実に三人は言葉が無くなり、その沈黙を破ったのは早川さんだった。
「さっきの電話には二課の鬼瓦さんであれには続きがあってな、この港付近にある倉庫の所有者から話を聞いているからお前も戻って来いと言われた」
暴力団対策を主な仕事とする二課が呼ぶ人物、そして鬼瓦さんがマークしている人物。該当され予想される人物は1人しかいない。そして早川さんはその1人の名を呼ぶ。

新城学だ。

高杉、お前も戻るか?そう問いかけた早川さんの言葉に高杉信也は言葉無く頷いた。2人が港から消えさり後に残っていたのは警官と田代だけだった。そしてその光景を後ろから眺めている男が1人…


~HELENE~

田代は1人でただ海を見ていた。そんな時後ろから語りかける声があった。
「間もなく年を超すというのに嫌な事件ばっかり起きますね」
田代が後ろを振り向けば仲嶋限がそこにいた。仲嶋限、この世で最も価値の無い書物――ゴシップ雑誌の週刊ジャーナルに所属する記者だ。田代は…否、諏訪川市に住む刑事及び警官全てがこの記者を嫌っていた。

警察と記者は持ちつ持たれつの関係だ。それは警察署内には記者が詰める部屋があるし、それぞれの編集部に警察番という役職の記者がいる事からも明らかだ。、記者は警察に対してネタを求め、警察は記者に対して公開して欲しい情報を与える。しかし、それはあくまで与えた方が良い情報だ。警察が現在関わっている事件の中には公開したくない情報や、報道出来ないニュースだってある。例えば犯人の手掛かりなどがそれに当たる。なまじっか犯人を特定してしまうと、高跳びや逮捕を恐れての自殺、果てはやけになっての犯行等が引き起こされる可能性があるからだ。

1年前の話になる。諏訪川署はとある強盗殺人犯を追っていた。犯人の目星は付き、後は捕らえるだけだった。もちろん犯人の情報は非公開であり、捕まえた暁には記者達に第一報を知らせるつもりだった。しかし警察の制止を無視し、犯人の情報を堂々と誌面で公表した雑誌があった。それが週刊ジャーナルであり、その記事を書いたのが仲嶋限だ。

自分が間も無く捕まってしまう記事を読んだ犯人は焦った挙句とんでもない行動に出た。人質を取って立ちこもったのだ。強盗殺人犯は誘拐及び立て篭もり犯となり、その事件を解決する際に誘拐された被害者と救出の際の小競り合いで若い警官が命を落とした。その事すらも週刊ジャーナルは警察の不手際として大々的に【ネタ】にした。もちろん仲嶋は今度署内立ち入り禁止となり週刊ジャーナル全体も署内に入る事が出来なくなった。

にも関わらずだ…何故この男はここにいる?田代は自問していた。署内の記者に上げたネタがこの男に流れるという事ならまだ分かる。しかしだ、この事件に関して警察は情報を記者連中に与えてない。【まだ流していない情報をこの男は何故聞き付けた?そしてここに来た?】疑問が喉元まで出かかるが、ぐっと我慢して田代は中嶋に話しかける。

「世の中で一番忙しいのは刑事だと思っていたけど週刊誌の記者ってのも忙しいんだな。今日は日曜だぜ、のんびり休んで家でごろごろしてた方が良いと思うぜ」
とっとと家に帰れ、暗にそう言ったつもりだったが、中嶋は我関せずという表情で胸元から煙草を取り出して火を付ける。
「いえいえ、今日は休みですよ。今担当している記事が難航してましてね。仕事がはかどらないと休みも不完全燃焼になってしまう。気分転換に海を見てみようと【たまたま】外に出たら【たまたま】皆さんがいたので後ろでお話を拝聴していたわけです」

たまたまだと?見え透いた嘘を吐きやがって…!田代は怒りを抑えながら中嶋との世間話に付き合う事にした。
「休みならきちんと休んだ方が良い。プライベートにまで仕事を持ち込む、その姿勢は嫌いじゃないが、早死にするぞ。」
「田代さんには言われたくないですね。それじゃあそろそろここで。この寒さは身に答えるし、皆さんの視線が痛いので邪魔者は退散しますよ」
仲嶋はそう言って去っていく。田代は部下の警官に塩を蒔いとけと言いたい気持ちで一杯だった。田代は中嶋の後姿を見ながら1つの予想を確信へと変えていく。

署内に、内通者がいる。

仲嶋が今日ここに来たのは偶然ではない。たまたまという事もあるかもしれないが、たまたまはたまにあるからそう言えるのだ。たまたまが連続して続いたらそれは最早たまたまではない。記者へと流してない情報を嗅ぎつけて中嶋が事件現場にやって来たのはこれが初めてではないのだから。既に両手では数えられないほどの回数になっている。

誰だ?誰が記者野郎の犬になり下がって情報を横流ししてやがる…!田代の脳内に警官の顔や刑事部に所属する同僚の顔が浮かんだが、そこまでであり誰が犯人なのかは皆目見当が付かなかった。

田代は分からない、中嶋と手を組んでいる仲間が誰かは分からない。
そして仲嶋も分からない、田代の――現場の警官全ての目を潜りぬけ自分を監視している二つの眼があるという事を。それは赤いワンピースの少女でもなく、青いワンピースの少女でもない、第3の少女だった。


別れ際、田代はふと気になった事があったので、中嶋の後姿に疑問をぶつけてみた。
「おい、その難航してる記事ってのはどんなのなんだ?」
そして、その答えを聞いた田代は思わず吹き出した。それは…

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