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言葉にしろ手紙にしろ荷物にしろ、それを渡すのは意外と簡単なのよ
一番大変なのはそれを渡すまで
それが言葉にしろ手紙にしろ荷物にしろ…気持にしろね




The Everglow

「はい、皆さんにグラスは行きわたりましたか?えーと。それでは…うん、今年も色々ありました。新人が入ってきたり定年退職者が出たり…そもそも新人が入るのは毎年の事ですね。はい、今年は未曽有の不景気となり我が塾にもその影響が出てきましたが、そこは皆さんの努力と熱心な授業態度で乗り越えられた事を常に感謝して…」

「塾長ー、そろそろ乾杯しませんか?ビールが温くなりますよー」

どっと笑い声が起きた。塾長1人苦々しそうな顔で乾杯の音頭を取る。
「今年一年お疲れ様でした。それでは、かんぱーい!!」

カチャンとグラス同士が口付けする音が聞こえる。次に聞こえてきたのは全員の喉にビールが流し込まれる音であり、その次に聞こえてきたのは「ぷはぁ!」というビールの感想だ。そして箸を取り出して思い思いに皿へと手を伸ばす。塾から3駅程離れた居酒屋。仕事帰りで寄るには少し遠いが、
「塾近くで我々がばか騒ぎのどんちゃん騒ぎをする訳にはいきませんからね」
という塾長の提案により、今年の仕事を終えてから全員で移動しての忘年会が開始された。

仕事を終え、靴を脱ぎ、楽な姿勢でお酒をおつまみを胃に流し込む。至福の瞬間であり、そこには緊張など存在しない。皆が皆仕事の重圧から解放されている顔だ。そういう自分も同じ表情をしているが、皆とは少しだけ事情が違う。社会人としては不適当かもしれないが、今日一日の仕事よりも先程――店に向かっている時が余程集中していた。

塾での仕事を終え店に移動する時、そういえば昨日のカラオケ代を立て替えてもらった事を思い出したからだ。皆で駅に向かっている際、そばに駆け寄って少し話してお金を渡す。何気ない会話に何気ないお礼。そしてお札を渡す時に少しだけ触れる手と手。コンビニでお釣りを受取る時に手を握られた。それが恋のきっかけです。そんな話を聞いて小馬鹿にしていた自分だが、どうやら自分も同じ穴のムジナのようだ。たったそれだけの事なのにかなり緊張した。周りに気付かれていないかと言う緊張と、相手にどんな顔をされるかという緊張だ。

結果としては、昨日、私の言った事で気まずくなったりしなくて安心した。

周りの事なんてその瞬間頭の中から消え失せていたが、きっと単なる世間話位にしか思われてないだろう。うん、そう思う事にしよう。前向きに考えながら予約した場所へと皆で歩を進めていった。そして今に至る。

店員がどんどんお皿を持ってくる。それと同時に空になったビール瓶もどんどん増えていき、店員を呼びながらテーブルの上を整理したり、空いたお皿を邪魔にならない位置に移動させる。皆の顔はほんのりピンク色になり、口から出る話題は今年一年の総括だったり、来年への展望であったりと様々だ。それでも仕事の――特に生徒の事は話題には出ない。

「どこで誰が聞いているか分かりませんからね。公の場所――例えそれが居酒屋やカラオケボックスだとしても生徒の話題は厳禁ですよ。それが良きにしろ悪きにしろです」

塾長の仕事理念であり、それをこういう場所でも徹底している事がこの職場を好きな理由だ。口だけりっぱな事を言って、現実にはそれと正反対な事を言う職場というのは多々あるし、そういう人だって吐いて捨てるほどいる。だけどここにそんな人はいないし、自分が好きな人もそんなタイプじゃない。だからこそ魅かれたのかな?同僚の話に相槌を打ちながらも頭の中では昨日言われた事が何度も何度も繰り返して再生されていた。

「明日、もう一回言ってください」

原因となった言葉は一昨日の事だ。仲の良い3人組で仕事終わりにラーメンを食べに行った。もちろん今自分の頭を占めている人も一緒だ。3人でお腹を一杯にして、それぞれ家路へと歩く。3人が2人になった時、彼がくるっと振り向いてきて言った。

「来年も、再来年もこうしてずっと絡めると良いですね」

そのくったくの無い笑顔、優しそうな瞳、寒くないですか?そう言って上着を脱ぎかける優しい仕草。全てが愛おしく、全てが大好きだった。だからこそ…

言おうって思った。





言おうと思ってたことをそのまま言うことができた。




そして訪れる無言、待たされる審判の時、それでも家路へと戻る4本の足は絶え間なく前に進み、お互いが分かれる場所へと到達した。
「それじゃあ」「はい、また明日」
そんな言葉で別れ、1人になってから3つ目の角を超えた所で携帯がメールの着信を知らせた。差出人は今一番返事が欲しい人であり、今一番返事が欲しくない人であった。


ちゃんと家に着きましたか?
さっきのやつ、明日、もう一回言ってください。
おやすみなさい。


それはたった3行の短いメールだったけど、十分だった。おやすみなさいとボタンを打ち込んで返信ボタンを押す。前半の返事については携帯に返すのを止めた。だって、明日直接言うんだから。

そして明日――つまり昨日の事だ。こうして思い出を振り返りながらも上司に酒をお酌しに行ったり、同僚とばか話を出来る時に自分は大人になったのだと感じる。頭で別の事を考えながら、口では当たり障りのない会話をしている時だ。これが進化という奴だろうか?でも、素直な気持ちを素直に言えなくなった分退化してるのかな?なんて思ったりもする。

昨日、仲の良い人達と一緒にカラオケに行った。内輪だけのプチ忘年会と言う奴だ。「明日、もう一回言ってください」リクエスト通りにそこで言おうとしたけど、皆がいる前で言えることじゃないし、タイミングも無かったから言えなかった。もしかして冗談だと思われてるのかなーとも思った。

皆で喉を潰す程(でも限界は超えない、だって明日も授業はあるから)歌ってほろ酔い加減で家に戻る。玄関を開けると携帯の表面がチカチカ点滅していた。荷物を置きながら携帯のボタンを押す。そして小さな画面上にお互いの言葉が写し出される。

【今日は言われませんでした】

【いやいや、今日はムリですよ。またいつか、タイミングを見計らって言います】

【持ち越しかー(´・ω・`)無事に着きましたか?】

言ってくださいって言われたからには、何度でも言いますよ。
タイミングを見計らって。でも忘れられないうちに。

自分で自分に言い聞かせるように言って、おやすみなさいのメールを打つ。さぁ、明日こそは…そして明日――今日が来て、今が来た。


最初の内は出てくるお皿が数分もしない内にきれいになり、置かれたビール瓶が二言三言交わすうちに空になった。しかし時間が経つにつれ皿の上にある料理が余るようになり、途中まで飲まれたビール瓶は暖房のせいでうっすらと汗をかいていた。席順も同様で、スタート時は皆きれいに――それこそ授業のようにきちんと席に座っていたのに、今となっては思い思いのグループで固まって最初の席順は欠片も無い。これが授業だったらとっくに学級崩壊だろう。

自分の周りでは何故か私の恋愛話盛り上がっていた。気になっている人の事を話したら、まぁいじられるいじられる。でも良い刺激になった。周りから見たら、人が私の話を聞いたら、多分、「――さんを好きなんだ」って思うんだろうし、恥ずかしながらそれで正解です。実際問題として私も、同じ話を他の人が言うのを聞いたら「こいつその人の事好きなんじゃん」って思うだろうしなぁ。

ちなみに件のあの人は上司グループに捕まって激励(説教?)を受けていた。とりあえず自分達の話は聞こえてないようで一安心。自分達のお喋りが向こうへ届かないように祈っていると友達が不思議そうな顔をして問い掛けてきた。

「でもあんた達って凄い仲良いじゃん。既にそういう関係かと思っていたよ」
そう、ネックはそこなんだ。最近になって友達以上恋人未満という言葉の意味を本当に身をもって知る。

朝会ったらおはようとお互いに挨拶、休憩時間にふと会ったらたわいのないお喋り、仕事が終わってお互いに予定がなかったら行き付けの居酒屋へ一緒に行く。それは心地良い関係、それはほっと出来る関係、それは…ぬるま湯の関係。良い意味でも、悪い意味でも。

好きって言って、ダメだったら…とか、
仮に付き合えたとしても、いつか別れたら…とか。

だったら【これまで通り】のほうがいいんじゃないかと。【これまで通り】ならこれまでと同じだけど、これまで以下になる事もないから。

自分が動かなきゃ何も動かない。
昔の人が言っていたエールだけどさ、こう思うのよ。
でも、動かしたら壊れない?

という不安事を打ち明けたら「大丈夫だよ、ファイト!」という返答が返ってきた。そう言えば同じような疑問を問い掛けたもう1人からは未だに返信が返ってこない。年末で仕事が忙しいのかな?それでも今日の夕方頃には終わると言っていたしな、そんな事を考えているとテーブルの上に置いていた携帯が振動する。「誰から~?」興味本位で画面を覗き込む友達の目から離れつつお手洗いへと避難する。画面をパカッと開くと、そこには自分の問いかけに対する答えと、最後の一文には相手からの本音が記述されていた。

【まだ、好きだからさ…やり直すつもりがないなら、連絡しないで欲しい】

その言葉は思った以上に心へと響いた。そしてそのメールにはまだ続きがあった。下画面へとスクロールすると痛いほどの本音が記されていた。

【色々言われて色々議論されているけど、男と女は所詮違うんだよ】

別れてからも友達だと思っていた自分。別れたら他人と気持を決めた相手。2人の考え方には決定的な違いがあり、どちらが正しいのかは分からない。ただ1つだけ分かっている事は、これ以上連絡をしない方が良いという事だけだ。はぁ…。溜息を吐いているとふいに自分の名前を呼ばれた、苗字ではなく、下の名前だ。そして呼んだ相手は自分が今一番ドキドキしている人。

「どう?ドキドキした??」

屈託のない笑顔で話し掛けてくる。私達がまだ【友達】だった頃ドキドキをテーマにして話し合った事がある。その時にふとした提案をされた。

「じゃあドキってするようにお互い呼び捨てにしましょうか?」

今だから言うけど(言わないけどさ♪)そうじゃなくても、ドキッとしてるよ。飲みかけのコーラを、「一口ください」って言われてドキっとしたり、メールの内容をいちいち深読みしたり、電話する前に話す事をリハーサルしたりとばか丸出しです。

周りから見れば変だと思われるかもだけど、しょうがないよね。恋と変って似てるんだもん。昔読んだ漫画に書いてあったけどその通りだと思った。漫画のセリフを思い出しながら、料理の感想やこの後の事などを何となく話す。周りを見回せばさすが忘年会シーズンで店内は込み合っていてお手洗いだって人が待っている状況だ。さすがにこの場面で約束を果たせるほど強心臓じゃない。お互いに酔ってない?などと確認し合い、元の部屋へと戻る。

それは何てことないお喋りであり、何てことないちょっとした時間だったけど、自分の気持を確認するのは充分過ぎるほどの時間だった。部屋の中では宴もたけなわとなっており、塾長がすっかり出来上がっている。

覚悟はあるのか?

真っ赤になった顔で部下に絡んでいる。ちなみにこれ、塾長が好きな小説からの引用だ。読んでいたく気に入ったらしく、事あるごとにその言葉を使っている。言われた(絡まれた)相手は適当に相槌を打っていた。席に着こうとすると本日何回目か分からないが塾長の言葉が届いてくる。

覚悟はあるのか?

覚悟があるのかは分からないけど、
心の準備はできていますよ。

自分が動かなきゃ何も動かない。
でも動かしたら壊れない?
だけど、決めた。壊す事じゃなく、動かす事を。
自分の気持を固めて、動く決心を決めた。

そして…覚悟も決めました。

気持を伝える覚悟を。
返事を受けとめる覚悟を。
そして、何があっても後悔しない覚悟を。


言葉にしなくちゃ伝わらない事がある。
言葉にしても伝わらない事だってある。
もちろん言葉にしなくても伝わる事だってあるし、
当たり前だけど言葉にしないが故に伝わらない事だってある。

だけど…たった…1つだけ伝わるものがある――1つだけ伝える事が出来るものがある。
気持だ、それは気持だ。自分の本当の気持ち。


塾長が閉めの挨拶をして皆レジへと移動する。会計を済ませる者、店員にお礼を言っている者、店の外で火照りを覚ましている者と様々だ。視線は自然とあの人を探す。いた、入口から少し離れた電柱に体を預けていた。酔っぱらっているという訳ではない。少しリラックスした体勢と言った方が正しいのだろう。好都合な事に周りには人がいない。幹事役はレジで領収書と睨めっこしているらしく、二次会に行くにしろ何にしろもう少し時間が掛かりそうだ。

心の準備を――覚悟を決めて一歩踏み出す。
さぁ…勝負だ。大好きな人の名前を呼ぶ。苗字ではなくて、下の名前を。

――さん。


そして、一昨日の約束を果たす。

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