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現実 前編



これは小説やゲームではない
現実だ
ご都合主義や都合良い事なんて起きやしない
だけどだ、それだからこそ出来る事がある
みっともなくても、格好悪くても良い
足掻け。足掻いて足掻いて、足掻きまくれ

現実


brahman


この世はほんとくそったれだ。


高杉信也は病院のベッドに転がってそうぼやいた。否、それはぼやきというよりもまるで道路に唾を吐きかけるように言い捨てた。ベッドの隣には物を置く台があり、そこの引き出しには相方のセブンスターがいる。もちろん病院内は禁煙だが、この病室には自分1人しかいないし、看護師の見回りまではまだ時間がある。誰も見てねぇんだ、構いやしねぇだろ。それが高杉信也の考えであり、持論であった。

ベッドから見える桜の木は自分の心情とは正反対で奇麗に咲き誇っている。あの花の下で花見をしたら楽しそうだろうなと思うが右足に捲かれたギブスがそれを許さない。一応枕元には松葉杖があるし、車椅子だって用意されてはいるのだが、そこまでして外に出向く気にもなれない。今自分がやりたい事と言えばとりあえず一服したいという事だけだ。

どうせ看護師が見に来て注意されたとしても、「誰か人に迷惑かけてますかね?」そう言って反抗するつもりだったし、何を言われようとも自分の考えを改める事は無かった。2本目の煙草に火を付けた時ガチャッとドアが開く。最初は看護師かと思ったがよくよく考えるとおかしい。彼等の仕事は規則正しいそれであり、何時に見回りに来るかまでマニュアルに記載されているんじゃないかと思うくらい正確であった。

だからこそ看護師と言う事は有り得ないし、医者と言う事も有り得ない。お見舞いと言う事に至っては看護師が点検を忘れる以上に有り得ない。僅かな驚きと共に入口を見ると包帯まみれの少女が入ってきた。最初は新しい入院患者かと思った。だが、それは無いと一瞬で理解する。そもそも新入りの患者が1人で入ってくる事自体有り得ないし、病院と上司がわざわざ【気を遣ってくれて】自分を1人部屋に閉じ込めたのだから。

髪はショートで、染めているのかと思うくらいの真っ白なそれだった。白と言うより銀色と言う方が正しいのかもしれない。体中に包帯を巻き付けており、顔の左半分――左目にも白く痛々しい包帯は巻かれていた。その少女はつかつかと自分の方に歩いてくるとガバッとたばこを奪い取った。

「おいっ!何をす…」
「臭い、キモい、邪魔」

その少女は簡潔に自分の言葉を言い放つとぎゅっと煙草を握り潰した。まだ消してない煙草をだ。ベットから飛び跳ねて少女の手を開こうとすると少女は何て事無い顔をしていた。その手を開けば一生を終えたタバコが手の平に捲かれた包帯を黒く焦がしている。

「お前…熱くないのか?」
「おっさん、手がキモいよ」
日本語は通じているようだが、言葉は通じてないようだ。そして少女が次に言った言葉は、
「おっさん、どいてくれない?外が見えないんだけど」
これが自分――高杉信也と少女――サヤとの初会話になる。

その日以来少女は自分の病室にちょくちょく来るようになった。最初は包帯姿から入院している患者かと思ったがどうも違うらしい。看護師に聞いてみてもそんな患者はいないと言われた。とすればお見舞いに来たのだろうか?どう見てもお見舞いするよりお見舞いされるタイプに見えるのだが、そこは突っ込まない事にした。誰だって追及されたくない事情ってのはあるもんだし、それは自分にとっても同じだ。

少女は自分の部屋から見える景色がいたくお気に入りらしく窓の傍に腰かけてじっと外を見ているだけだった。ただ黙って何も喋ろうとはしない。それが口を開くのは数日程後の事になる。それは少女が自分の病室に来て3日目の事だった。相変わらず何を聞いても答えはしない。喋る言葉と言えば「邪魔」「臭い」「どけ」これが現代少女の間で流行っている言葉使いだとしたら、この年位の子供を持つ親はさぞかし涙目だろうと思う。

人事のような考え方をしているが、他人事ではない。自分だってこの子と同じくらいの子を持つ父親なのだから。正式に言えば自分の息子ではない、自分が結婚した相手の子供だ。更に言うならば自分の妻【だった】女性が残した子供だ。そしてその息子は見舞いどころか事件以降一回も病室を訪れようとはしない。そりゃそうだ。妻を殺された腹いせに組一個ぶっ潰すような狂人のお見舞いになど誰が訪れるだろう?入院した当初職場へと電話を掛けた。上司がいなく少々待つ事になった。相手はきちんと保留ボタンを押したつもりだったが、保留状態になってない電話は職場の声をそのまま高杉に伝えた。

「課長、高杉さんから電話ですよ」
「留守と言っておいてくれ。あんな人殺し野郎と話したくもねぇ。あいつのせいでうちがどれだけ暴力署と叩かれたのか分かってんのかよ」
部下は受話器を手に持って居留守を伝えようとしたが本人――高杉信也は既に電話を切った後だった。そして禁煙と言われていたのにも関わらず胸元から煙草を取り出す。これが病室で吸った一本目となった。

そして入院した日から誰一人として見舞いに来ない。上司も同僚も家族も、来るのは不機嫌面な看護師と必要以上におどおどしている医者だけだ。そんな時に初めての見舞い客としてこの少女はやってきた。見舞いと言っても人を邪魔者扱いして窓の外を見ているだけだが、何も言わない分助かったりもした。

この子とちょっとした時間を過ごすようになって気付いた事がある。この子は相当な変わり者だ。そりゃあ体中に包帯を巻いているんだから、変わり者に決まってはいるのだが、変わっているのは外見だけでなく内面もだった。何を聞いても無視、何を問いかけても無言、たまに聞く言葉は全てが自分に対する苦情だ。そんな彼女に辟易しながらも誰も来ないよりはましだと思いながら、テレビ台の引出しから麦チョコを取り出した。

こんな年――20代の半ばにもなってチョコとか言うのは恥ずかしいが、病院と言う奴は入院患者に対して厳しくて甘い物が食えないのだからしょうがない。使いたくもない松葉杖を使ってわざわざ売店まで菓子を買いに行った。この時ばかりは誰も見舞に来なくて良かったと思う。20代も半ばの男がお菓子を眼前にして目をキラキラさせている姿など何があっても見られたくはない。麦チョコの袋を破って黒くて甘い菓子を口に放り込んでいると少女がいきなりこちらを向いてきた。

「お前、それ何だ?」
「は?麦チョコだよ。何だ、良い歳してこんなのが食ってるのがおかしいってか。良いだろ別に。人が何を食ってても…」
「お前が何を食ってようが関係無い。それ、食わせろ」

ばかにされないのは少し助かったが、いきなり命令形で寄越せと言われて素直にあげるほどこちらも人間が出来ていない。
「お前なぁ、人にものを頼む時の言葉がそれかよ」
「んじゃ、どうすれば良い?」
「こういう時はお願いしますって言うんだよ。学校で習わなかったか?」
「分かった、お願いします。それ、食わせろ」

苦笑しながらもその子に麦チョコを渡す。貪るように手の平にチョコを掴んで口へと運ぶ。あっという間に一袋が空になった。少女はご満悦という顔をしていた。その顔を見ているとこちらは食べてもないのにお腹一杯になった気がしてくる。
「何だ、可愛らしい顔も出来んじゃねぇか。ほら、もう一袋行くか?」
これで麦チョコの買い置きが無くなってしまったが、また買いに行けば良い。何か言われたらうちの野良猫が大好物なんですよとでも言っておこう。少女にもう一袋を渡すとそいつはそのまま袋へと噛み付いた。
「ん?今度のむぎちょこは固くて不味いぞ」

傷口が開くから笑ってはいけませんよと看護師に言われていたが無理だった。これから数時間後看護師から何があったのかと傷の治療をされながら聞かれる羽目になるのだが、そこは刑事として黙秘権を行使した。思えばこの日から少女と自分の妙な時間は始まったのかもしれない。相変わらず無愛想で口を開くのは自分に対する苦情か麦チョコを要求する時だけ。現金といえばそうかもしれないが、少なくとも口だけりっぱで何一つしようとしない職場の連中に比べれば数百倍マシだった。

サヤは毎日毎日自分の病室に訪れてはただ黙って窓の外にある桜を見ていた。ある時聞いてみた事がある。
「桜がそんなに珍しいのかよ?」
「一生懸命生きて――咲き誇っている姿が美しいんだよ」
「ガキの癖に生意気な事言いやがって」
そしたら黙って引出しから麦チョコをひったくりやがった。本当に生意気なガキだ。

それでも最初に比べれば幾分マシになったと思う。最初の内は何を話し掛けても無視で、サヤという名前を教えてくれたのも1週間位経ってからの事になる。(もちろん麦チョコを餌にして)名前は?と問うたらサヤという二文字が返ってきただけだ。続けて名字を尋ねてみたが沈黙と言う漢字二文字で返してきた。まぁ良いか。そもそもこんな辛気臭い病院じゃ名前なんて大して意味をなさない。もしそれが意味を持つのだとしたら患者を識別する記号みたいなもんだと高杉信也は納得する事にした。

ある日の事だ。息子と上司が見舞いにやってきた。否、それは見舞いというより用事という方が正しかったのかもしれない。息子の大樹は学校で親にサインしてもらう書類を貰ったから持ってきただけ。上司は自分の処遇について言いたい事があるそうだ。今すぐ喋ればいいものを何故かもごもごしている。恐らく人がいたら話し難い内容なんだろう。しょうがない、大樹の用事を先に済ませるか。

大樹は無言で自分に書類を押し付ける。自分はそれを流し読みしながらサインをしようとするとサヤがずかずかと入ってきて書類を引ったくった。「?」という表情をしている大樹に向かってサヤが恫喝する。
「おい、お前。こういう時はお願いしますって言うんだよ。学校で習わなかったか?」
自分も大樹も目が点になっていた。上司がその場をなだめようとすると、サヤはその毒舌を上司にも向けた。
「お前もお前だ。人にものを頼む時の態度がそれかよ?」
君は一体何を言って…上司の言葉を遮ってサヤの早口は続く。
「大変な事件を味わった君にとってこの街は危険すぎる。どうかね?海と山に囲まれた村でのんびりと暮してみないかって、そりゃ単なる島流しじゃねぇか」
「なっ、何を適当な事を…」
上司は否定していたが、そのうろたえようからして正解なのだろう。ここまでの事をやらかした自分だ。左遷位は覚悟していたさ。上司は言おうとしていた事が暴露されて慌てている。
「とっ、とにかくだ。この話はまた今度だ…!」
情けない捨て台詞を残して上司は去っていった。後に残ったのは息子の大樹だけだ。大樹はサヤから書類をひったくり返すと、
「知り合いにサインしてもらうから良いよ。じゃあな、【おじさん】!!」

そう言い捨てて息子も去っていった。後に残ったのはサヤと自分だけだ。サヤは自分をじっと見つめて、
「なぁ、サヤ…悪い事したか?」
と聞いてきたので、
「サヤは俺の為を思ってやってくれたんだろ。それが悪い訳ないじゃないか」
頭を撫でようとするとバシッと手を叩かれた。
「別にお前の事なんてどうでも良い。麦チョコの為だ。ほら、さっさと麦チョコよこせ」
はいはいと言いながら麦チョコを渡すと、サヤは自分の内面を見通したかのようにじっと見つめてきていた。
「大丈夫だ、お前は間違ってない。法律とか常識とかを含めればお前は…正しいとは言えないけども、少なくとも間違ってはいない。絶対にだ」
自分は元気づけられているのか?そんな事を考えているとふと気付いた事がある。サヤの包帯が若干剥げているような気がした。通常包帯の下は傷があるものだと思っていたが、その下には何も無く。白い肌が存在しているだけだった。その包帯は保護するためのものでなく、隠す為だと分るのは数年後の事になる。

余談であるが、この日売店での麦チョコ売上が最高記録を達成したらしいけども、何が原因かは定かではない。

いつだったか、この病院では名前なんて大した意味は持たない。患者の識別記号程度だという認識をしていたけど、サヤという名前が意味を持つ日がやってきた。それは木漏れ日が体に優しく降りかかるある日の事だった。今日は珍しくサヤ坊は遅いな、せっかく好きな麦チョコを買っておいてやったのに。そんな事を想っているとガチャっとドアが開いた。サヤかと思ったが一瞬にして違うと確信する。そりゃあ、昨日まで包帯をぐるぐる巻きにしていた少女が、いきなり赤髪のロングヘアーになって身長も伸びたのなら納得もするが、今現在日本の整形技術はそこまで進歩してないはずだ。赤い髪に緑の目、すらっと伸びた背にモデルのような体型。その少女はつかつかと自分の元へ歩いてくるとギブスで巻かれた足をぐいっと押してきた。

…!!激痛が脚から脳へと伝わる。「お前!何…」声は途中で遮られた。当然だ、喉元をいきなり手の平で掴まれれば誰だって声が出ない。
「おじさま、サヤはどこかしら?隠すと少々痛い目に合いますわよ」
手が喉元から離れるが苦痛は逃げない。咳き込みながら少女の質問に答える。
「おじさまじゃねぇ。お兄さんと呼べ」
「…どうやら、直接体に聞いた方が早そうですわね」
そう言った瞬間、少女の瞳が緑から赤色へと変化した。刑事という仕事は好奇心の塊でなければならないと先輩から教えられた。少女の体に起こった色の変化を不思議がろうとしたが、思考が急にゆるやかになってきた。考えようとするが睡魔が襲いかかる。そして…そして…

「ともぞー!!」
振り向けばサヤがそこにいた。自分をキリリと見つめる強い瞳。その眼を見ていると少しだけ体が楽になったような気がした。
「あら、【直に】聞こうと思ったのけど、そちらから来てくれたとは手間が省けるわ」
「……」
サヤに、少女に、何かを問いかけようとするが、口が思うように動かない。瞼が鉄のように重くなり、気を抜いたら深い眠りに落ちてしまいそうだ。
「でも、サヤ…次に作業の邪魔をしたら怒りますからね」
少女は自分を見つめながら優しそうに微笑んだ。そしてサヤを見る。サヤも優しそうな…悲しそうな…哀しそうな表情をしていた。


そして、その日以来病院でサヤを見る事はなくなった。

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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