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手紙



分るとか、悟るとか、理解したとか
そんな言葉はさぁ…
10年早ぇよ、クソガキ共
おしめとってから出直してこい
けつに付けるそれじゃねぇぞ、頭のおしめだ

手紙


~Paper-craft~


――新幹線の中で手紙を書いている――

「この時代に文通ってのも良いと思わない?」

それはチャット上での一言だった。ポケットベルで通信し、小さい電話で声をやり取りする。そしてネット上で文字を往復させ、ディスプレイ上には会話をしている相手の顔が映る時代になってきた。そんな近未来的な世界になった時に文通と言う二文字は、ある意味ありかもという結論に達してキーボードにお互いの住所を書きこんだ。

「よくよく考えれば妙な話だよね?」
ディスプレイ上に彼女の文字が表示され、どうして?と聴き返した。
「だってさ、お互いの顔も名前も性格も携帯の番号も知っているのに今更住所だけ知らなかったんだよ」
そう送られてきた画面に、「お互いの体にあるほくろの位置や数だって知ってるよ」と書き込もうとしたが、彼女はその手の話題が苦手な為(以前そういう話をしたら黙って通信が途切れた事がある)泣く泣く自重してキーボードに別な事を打ち込んだ。

「しかし、手紙か~。何を書いたら良いんだろ?」
「何でも良いんじゃない。一日にあった事とか、ちょっとした出来事でもさ」
「それなら電話やメールで沢山してるじゃないか」

そう言うと二人の会話が止まった。そうだ、そもそも文通なんてのは会えない、話せない、通信出来ない、そんな状況を打破するために生まれた手段であり、今みたいに番号をプッシュすれば話せる。送信ボタンを押せば文字が送れる。そんな時代――そもそも手紙よりメールのほうが早いこの世の中では意味を成さないのでは?と考えてしまう。

「んじゃ色々な物を送ろうよ。お互いに好きな本とかCDとかさ。後はお菓子なんかも送ったりして、そういうのって楽しそうだと思わない?」
それはもはや文通じゃないだろ。そんな事を言いながらも僕達の【文通】はスタートした。


さて、どんな事であれ、初めの内は楽しいものだ。それからは毎日毎時毎晩便せんにボールペンを走らせた。彼女は可愛らしいマーカーを雑貨店で揃えたと言っていた。手紙だけじゃ味気無い、そんな理由でテープレコーダーを買った揚句に相手へ一時間近くのメッセージを録音したりした。

さて、どんな事であれ、段々と飽きが出てくるものだ。最初の内は1週間に1度だった手紙が2週間に1度になり、1か月に1度になった。そしてここ数ヶ月はポストに封筒を投函していない。そして長期休みが2人出会える唯一の機会(まるで織姫と彦星のようだねと笑いあったもんだ)なので、その際直接手渡す事になった。

さて、どんな事であれ、段々と飽きが出てくるものだ。メールにしろ、手紙にしろ…それが男女のお付き合いにしろ。悲しい事かも知れないが現実ってのは得てしてこんなもんだ。不滅の想いなんてのは漫画のキャラクター同士やトレンディードラマの脚本にしか存在しない。

さすがに付き合い始めて二年も経てば最初の情熱は薄れてくる。お互いにお互いを思いやる気持ちも段々と薄れていき。最初の内はぎこちなかった2人の空気もいずれはなあなあになっていく。そして慣れ合いは不平や不満を生み出す。喧嘩も身を焦がすような愛情も無く、ただただ惰性で付き合っている2人。長年連れ添ったカップルと言えば聞こえはいいのかもしれないが、漢字3文字で表せば単なる倦怠期だ。

余談だが、遠距離恋愛をしているタイプには2通りあると思う。離れているが故に想いが燃え上がるタイプと、距離と想いが比例して遠ざかるタイプだ。そして自分達――少なくとも自分の場合は後者だった。距離と同様気持が離れ出すとどうなるか?答えは大抵決まっている。周りを見回して相手と他の相手を見比べたりするのだ。こいつよりあいつの方が可愛いな。こいつなんかよりあいつの方がスタイル良いや。我ながら何て事考えてんだと自己嫌悪に陥り掛けるが、

「○○ちゃんの彼氏は××を買ってくれたんだって~」
「○○ちゃんの彼氏は××に連れて行ってくれたんだって~」
「○○ちゃんの彼氏は即座にメールを返してくれるし、小まめに電話を掛けて…」
余りにうるさいので3つ目の言葉は聞き流した。とにかくだ、こんなセリフを聞いた瞬間に罪悪感は消滅した。

そして締め切り間際の手紙を書きながら新幹線は目的地へと向かう。


――新幹線の中で手紙を書くのを止めた――

やっぱり世の中で言われているようにお互いの距離が離れていると厳しいのかな…そんな事を考えながら背もたれに体を預けると、うとうとと睡魔に襲われた。気が付けば後2時間程で目的地に到着する距離まで近付いている。手紙は全く出来ていないが、どうせ今日は駅近くのビジネスホテルに泊まって明日会う予定だから夜にでも書けば良い。そうやって後回しにしながらも、夜になったらなったで明日の朝早くに書けば良いや、今夜は長旅で疲れているから寝ようなんて考えてしまうんだろうな。

そんな予想をしていると入り口のドアが開いて車内販売の売り子が入ってきた。眠気覚ましにコーヒーでも飲もうとコートのポケットから財布を取り出す。ふと周りを見回せば乗客は殆ど入れ替わり、通路を挟んだ空席には初老の夫婦が座っていた。

売り子に小銭を支払ってコーヒーを受け取る。
「お砂糖とミルクはどうしますか?」
ミルクだけ願いしますと答えて、クリームをコップに入れてもらいながら隣を見ると、お婆ちゃんが売り子を呼びとめて2人分のコーヒーを注文していた。同じように、
「お砂糖とミルクはどうしますか?」
と聞かれて、お婆ちゃんは迷う事無く、
「あたしは眠気覚ましにうんと濃いいのを飲みたいからそのままで良いわ。でもこの人は男の癖に大の甘党なのよ、情けないったらありゃしない。だからあたしのと合わせて2つ分のミルクと砂糖をお願いね」

お婆ちゃんは微笑んでいた、売り子も微笑んだ、その光景に釣られて自分も顔がニヤけていた。何も知らないのはぐーすかいびきを立てているお爺さんだけ。お婆ちゃんはカップを2つ受け取ると1つは自分の口元へ、そしてもう一つをお爺ちゃんの前にそっと置いた。風が吹かない車内でも香りは漂うものだ。初老の男性へと香ばしい香りが届き、それは目を開けさせるに十分だった。

目が覚めたお爺ちゃんは挨拶もそこそこにお婆ちゃんに話しかける。
「おい、このコーヒーは…」
「はいはい、いつものようにお砂糖とミルクを二つ入れておきましたよ」
恐らく何年――何十年と繰り返されてきた会話なのだろう。お婆ちゃんは手慣れたものでお爺ちゃんが全てを言う前に先んじて答えを言った。お爺ちゃんは言葉を途中で遮られた事に不満気だがひとたびコーヒーを口元に運べば、
「うん、美味い。やっぱり眼覚めにはコーヒーだ。この苦味が何とも言えないな」
大層ご満悦だ。ミルクも砂糖も倍入れて苦味も何もあったもんじゃないだろうと思ったが、そんな事はお婆ちゃんだって分かり切っているらしく、良かったですねなんて相槌を打っている。笑いを堪えているのは自分と売り子のお姉さん位だ。

新幹線のアナウンスが目的地一歩前の駅を呼び減速していく。目指す場所まで後一時間位だろう。高速電車がホームに着くとお爺ちゃんお婆ちゃんの2人は席を立った。何も言わずとも2人分のゴミを片付けるお婆ちゃん、何も言わずとも2人分の荷物を持つお爺ちゃん。その光景は暖かく、微笑ましく、心をほっとさせた。そして2人はお互いの手をそっと握ってホームへと降り立って行く。その様子は手と手を繋ぐというよりも、【いつもの場所に手を差し出せば、そこにはいつもと変わらぬ相手の手があった】という感じがした。

周りをも幸せにするカップルを見送ってはふと思う。本で読んだだけの知識や、テレビを見ただけの教訓や、たかだか二、三十年しか生きてないような薄っぺらな人生経験で、何かを悟った気になるのは早すぎるかも知れない。人生ってのは80年近くある。もちろん80年丸々謳歌出来るとは限らないが、それでも人生はまだまだ折り返し地点にも来ちゃいない。

分った気になるのは良い。
悟った気になるのも良い。
だけど、全てを見渡した気になるのは早すぎる。

人生は何十年もある。それ全てが勉強であり、それ全てが実戦だ。

距離が離れれば気持ちも離れるとか、何年も付き合っていればなあなあになってくるとか、尻が青いくそがきの戯言だ。少なくともそんな言葉は数十年経ってから言えば良い。あのお似合いなカップルのように。しわくちゃになるまでお付き合いするってのも乙なもんだろ。少なくとも君とならそこまで付き合っても楽しくやれそうだ。そうだな…そんなもんだ。

離れ行くプラットホームを見れば沢山のカップルがいる。それらを見ながら目移りするのはしょうがない、隣の芝生は青く見えるなんて言葉の通りだ。正直に言うと君よりも美しい女性は一杯いるし、自分より格好良い男性だってごまんといる。でもこれから先何十年も付き合っていくなら相手は君しかいないと思うし、君みたいな相手に付き合えるのも自分だけだと思っている。こんな事言えないけどな、ふくれっ面されて頭を叩かれて終わりだ。

さて、妄想はこれまでにして手紙の続きでも書き始めますか。ボールペンを取り出すと同時に新幹線は後一駅に向けて走り出した。よし、締め切りは近い。いっちょ頑張りますか。


――新幹線の中で手紙を書き終えた――

そして、目的地のアナウンスが流れる。荷物を持ってホームへと降り立った。手紙を渡す為に、顔を見る為に、好きな人をぎゅっと抱きしめる為に。

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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