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うたかた 5話 前編

日曜日 其の弐



山下愛美ちゃんはお母さんと食事をしていました。今夜のメニューは山下君の大好きなハンバーグとポテトのサラダです。お父さんは今日も遅いけど(仕事って言ってたけど本当なのかな?)大好物のメニューがあるし、テレビでは今大好きなアイドルの中山君が出ているので大満足です。中山君の歌が終わりCMに入ります。

ママは口やかましそうに「ほら、早く食べちゃわないと冷めちゃうわよ」と言ってきます。愛美ちゃんがフォークに刺したハンバーグを口に運ぼうとした時、窓の外に何か見えた気がしました。夜の八時だからカーテンは閉めているのですが、僅かながら空いた隙間を何か通った気がしたのです。「ママ、外に何かいる」そんな言葉が出かけましたが、そんなはずがありません。

ここはマンションの八階なのですから。黙って外を見つめている愛美ちゃんの視線にママが気付きました。
「あらあら、カーテンがちゃんと閉まってないわね」
そう言ってカーテンを閉じようとしましたが、その手が止まりました。ママの目にも見えたのです。空を走り抜ける2人の女の子が。

ママは何も見なかったふりをしてカーテンを閉じました。そして明るい笑顔を作って言います。
「ほら、早く食べてよ。愛美の好きな桃のゼリーだってあるんだからね」
愛美ちゃんはママの作った料理が大好きですが、ママの作ったデザートももっと大好きです。既に愛美ちゃんの頭から先ほどの風景は消えうせていたし、ママの頭からも【気のせいだ】という結論が下されていました。

そうだ、気のせいに決まってる。空を女の子が飛ぶなんてありっこない。そんなのは…


~Take It Away~

「何だこりゃ?」
仲嶋は訳が分からないという表情をしていた。当然だ、自分だって何が起こっているのか分らない。高杉大樹はただ見つめていた。れなが自分の横を駆け抜けていったかと思うといきなり現れた包帯まみれの少女と空に消えていった。比喩表現ではない、本当に…空を駆け上がるかのように宙に消えていったのだ。

「面白いもの見せてあげるっていったけど、やっぱり意味なかったかしらね」
ともぞーと呼ばれた少女は誇らしそうに中嶋に語りかけている。それは出されたなぞなぞに自分だけが答えられたような誇らしい顔に似ていた。そして解けない子供に向かって嘲笑する様子にも似ていた。あらあら、こんな問題も解けないの?こんなに簡単なのにね。自慢げに、そしてゆっくりとともぞーは大樹に向って歩いてくる。

高杉大樹はどうすればいいか考える。いきなり目の前に現れた少女達。1人はれなと共に空へと消えていき、1人はにこやかな顔で自分へと近づいている。高杉大樹はそれ程不格好な顔付きではない。女の子が笑顔で寄ってくる程何度もあったし、女性自身が白いブラウスのボタンを外しながら迫ってくる事もあった。しかし…これは違う。すり寄って手を繋ごうとするのでなければ、耳元で愛を囁くのでもない。

その瞳は、ほがらかに殺意を抱いている。

高杉大樹の一歩手前にともぞーが近づく。そして、囁いた。
「大丈夫ですわよ、痛いのは最初だけだから…どうかご安心なさって」
そう言ってともぞーの手がゆっくり高杉に伸びる。逃げろ、逃げろ、逃げろ…!脳が、体が、防衛本能が叫ぶが足が動かない。一歩どころか指の一本すら動かせないのだ。そしてともぞーの指が高杉の唇にそっと触れて、その爪先がゆっくりと首元の頸動脈に…

「大樹に触るなぁああ!!」
その瞬間れなが空から降ってきた。比喩表現ではない。本当に空から降って――否、凄まじいスピードで落下してきた。れなは大樹とともぞーの間に無理やり割って入り、凄まじい轟音と共にアスファルトが砕け散る。土煙りは3人を包み込み、凶器と化した地面の欠片が大樹の全身へと襲い掛かる。しかし、れなは大樹の前に立ちはだかってそれらを全て片手でキャッチした。そしてもう片方の手はともぞーの首元に突き付けられている。

「これ以上大樹に近づくと…殺すよ♪」
れなは笑顔で脅迫していた。
「おかしいわね、あなたは殺すと言う言葉は使わないと思ってた」
「殺すなんて言葉は【それ】が出来ない臆病者の言葉ですわよ。【それ】が出来るお方は殺したと言いますわ。普段のあなたなら最早あたしの首を胴からお放しになっていますわよね」

土煙りが晴れる。1人蚊帳の外にいた中嶋は咳き込みながら状況を見詰めた。そして同じ言葉を発した。
「何だこりゃ?」
ともぞーの首元にはれなの片手が突き付けられている。
ともぞーは両手をあげて降参のポーズだ。
そして高杉大樹の後ろにはサヤがいて、後ろから背中に指先を突き当てていた。爪先は衣服を突き破り皮膚に触れるか触れないかの距離で止まっている。
サヤはゆっくりと、しかし確実に呟いた。
「ともぞーをやるな。やったら、こいつ、やる」

ともぞー、サヤ、れな、大樹、四人が四人共固まっていた。最初に口を開いたのはともぞーだった。
「さすが三日月家の元頭首ね。サヤの気配に気づいて手を止めるなんてよく周りが見えています事」
褒められても嬉しくないわよ。サヤはそう前置きして要求を簡潔に伝える。
「このくされ包帯女に大樹から手を放させろ。じゃないとお前の頭と胴を切り離…」
「やってごらんなさい」
れなが喋っている途中にともぞーが遮るように言った。
「やれば良いじゃない、簡単よ。今あたしの首元に掛かっている手にちょっと動かすだけで簡単にあたしの首はお空に浮かぶわ」
脅しているのはれなだ。現にれなの手はともぞーの首に掛かっているが、ともぞー自身はお手手をあげて降参のポーズ。しかし現実としてはともぞーが脅迫している。

れな自身分かっているからだ。【自分がこいつを殺す速度と同じで、この包帯女は大樹を殺せる】という単純な事実を。だからこそ動けない。そしてサヤ自身も理解している【自分がこの男を殺す速度と同じで、この女はともぞーを殺せる】という事を。

れなは動かないし、サヤも動かない。大樹も動かないし、中嶋は地面に腰を付けてガタガタと震えている。その状況で口を開いたのはやはりともぞーだった。

「しょうがない、僅かばかり協力してもらいましょうか」


~Master Of Puppets~


鈴木隆は今日も同じ時間に退社して、同じ時間の電車に乗り、同じ席に座って、同じ駅で降りる。そして帰り道のコンビニでいつもの発泡酒を買う。新婚当時は疲れて帰ってくるんだからビール位用意しておくわよと言ってくれた妻も何時の間にか先に寝るようになり、いつしかビールは高いと発泡酒を買う羽目になってしまった。これも自分の稼ぎが悪いからだと説教されたが、こんな人生はこれで幸せだと思っていた。こういう毎日――変わり映えしない日々と言えばそれまでだが、それはそれで楽しいものだと思っていたのだ。だからこそ今日もいつもと同じ一日が終わって、発泡酒片手にプロ野球ニュースを見ようと家路へと急いでいた。そう、いつも通りに。

ただ、本日いつもと変わった点があったとしたら、それはたった二つ。
1つはいつも同じ帰り道に4人の男女がいた事。
そしてもう1つは…

「しょうがないですわね、僅かばかり協力してもらいましょうか」
腰まで伸びた赤い髪の少女が自分に向けて語りかける。不思議な光景だった。いや、それは不思議というより異様な光景であった。自分に語りかけた少女は青いワンピースの少女に首を掴まれている。そしてその少女は高校生らしい男性の前に護るように立ちはだかっている。そして男性の背中に爪先を突き付けている包帯まみれの少女がいるし、少し離れた部分では中年の男性が腰を抜かしてガタガタと震えていた。

自分に話しかけて呉れた少女を見て最初に思った事は可愛らしい少女だと考えた。襲いたい、不謹慎だが次に思った事はそれだった。鈴木隆はロリコンではない。しかしだ、ロリコンの定義とは何だろう?ロリコン=年下好きだとすれば、成人男性30代の内9割5分はロリコンになるだろう。ちなみに残り5分は熟女好きだ。鈴木隆もその例に漏れず年下好きであり、そういう意味ではロリコンであった。もちろん妻に一生を捧げるという気持ちに嘘偽りはないが、目の前にうら若き乙女が現れたら欲情を催すのが健全な男性というものだ。

「おじさま、こんにちはでございます。」
何だ、この子俺に気があるのか?清々しいほどの勘違いをしながら返事をしようとするが口が動かない、言葉が発せられない。いや、指すらも動かない。何故だ…?そんな事を考えていると急に指が――足が動いた。否、【動かされた】。勝手に足は地面を踏みこみ、勝手に手は白いカッターシャツの胸元にあるボールペンを握りしめる。壊れるほどの握力でボールペンを握りしめていた。そして自分の足は高校生らしい少年の元へと歩き出していた。

「ご存じですか?ボールペンでも刺し場所と力さえあればりっぱな凶器になるんですよ」
ともぞーの声は大樹とれなに語りかけていた。そしてその瞳は鈴木隆をじっと見つめていた。見つめられている当の本人は口が開けない、指先が動かない、全ては動かされているのだ。一歩ずつ、一歩ずつ少年の元へと歩んでいく。ボールペンをぎりりと握りしめながら。

「おい…止めろよ…」
大樹はゆっくりと呟く。サラリーマンに向かって、そしてともぞーに向かって。しかし中年の動きは止まらずに一歩一歩確実に大樹へと向かっていく。それは死刑囚が一歩一歩階段を昇っていくようでもあった。ただ1つ違う点があるとするならば死刑を行う側が一歩一歩近づくという一点に於いてだった。
「止めろ…止めろよ…」
大樹は尚も呟く、そして叫んだ。
「やめろぉー!!れなぁー!!!」

しかし、時は既に遅い。スパッという音と共に白いカッターシャツは赤色一色に染まっていた。そしてシャツの上からは赤い噴水がとめどなく吹き出ていた。それでも手先は動いている。大樹の目の前に立った首無し男は赤い血飛沫をまき散らしながらボールペンをぐいっと振り上げた。

「いい加減くたばれよ、このくそおやじが」
れながそう言って鈴木隆【だった】右手をパシッとはたく。軽くはたいただけなのに肘から先は消え失せて道路の壁にべチャっち張り付いた。それは子供が虫を思いっきり壁へと叩き付けたように。そこには腕だったものの跡がありありと残っていた。

後に残ったのは不満気な少女、茫然自失と突っ立っている少年、そして鈴木隆【だった】肉塊。次に動いたのは少年だった。れなの首元をぐいっと掴んで叫ぶ。掴まれたれなは「あら、押さえつけてするのが趣味なの?もう…乱暴なんだからぁ」と楽しそうだ。

「ふざけんな!何でだっ!!何で殺した!!!」
れなはきょとんとした顔をしている、そして当たり前の表情で答えた。
「だってこのくそ親父は大樹を殺そうとしたのよ。そりゃ殺すでしょ」
いとも簡単に――部屋に迷い込んだ害虫をバシッと雑誌で叩き潰すようにれなは人を殺した。大樹からしたらそれが許せなかった。自分の命を救ってくれた感謝の気持ち以上にれなの気持を理解出来ないという怒りが――憤怒の気持の方が大きかった。
「お前だって見てれば分かるだろ!あの人は操られていただけなんだぞ!!なのに…なのにっ…何で殺した!!」
「だってそりゃあ…」
れなは一向に反省しない。いや、そもそも悪い事という自覚が無いのだ。その無邪気さが尚更大樹を苛立たせた。れなの言葉を遮って叫ぶ。
「いい加減にしろ!お前は命って奴を何だと思ってやがんだっ!!」


そして2人の言葉を遮って聞こえてくる声。
「いい加減になさるのはあなた達ではない事」

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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