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うたかた 第7話 前編

それが考え事をしているのであれ、ただ単にぼけっとしているのであれ、意識を集中していなければ注意される。当たり前の事だ。時は同じく、しかし場所は異なって2人の男が注意された。

「高杉君、ちゃんと聞いているのかね?」
時刻は授業中、場所は教室、先生の話をちゃんと聞いていなければ注意されるのは当然だろう。高杉大樹は頭をペコリと下げて教科書を開くが、意識は昨夜中嶋限から言われた事を反芻していた。

「兄貴、大丈夫ですか?」
時刻は仕事中、場所は事務所、それは注意というより心配といったほうが正しいのかもしれない。いつもきびきびと仕事している新城学が珍しくぼけっとしているのを部下の金子が心配している。
「大丈夫だ、いらん心配をするな」
新城はそう言って顧客リストを開くが、意識は昨夜高杉信也から言われた事を反芻していた。

そう…それは昨夜告げられた昔々のお話。
そう…それはちょうど今から7年前の出来事。
そう…それはまさに今の礎となる悲しくも激しいお話。


~Seven Years~


「れな様、おはようございます」
田んぼの横にある車一台程しか通れないようなどこにでもある田舎道。そこを三日月れなと三日月ゆうは歩いており、すれ違う村人達皆がれなに挨拶する。ここはF県にある名も無き村。名産品も無ければ特産品も無い。そもそもこんな村に訪れる旅行客などいやしない。来る方法がF県からローカル線に乗って2時間、更にそこからバスに揺られて1時間ともなれば誰も来やしないのが通常なのだろう。しかし、この村にとっては都合が良かった。現世とは違ったルールで支配されているこの三日月村では。

「も~、そのれな様ってのはやめてよねー。れなで良いよ、れ な 」
いくら言っても聞きやしない。皆が自分をれな様と呼ぶ、その癖みゆはみゆ嬢ちゃんとかだ。あたしだってそっちんが良いもんと言っても誰も呼び方を変えはしない。
「いいえ、れな様はれな様でございます。そもそもれな様に無礼な口の利き方をしたら、わし達が現党首に叱られてしまう」
それでもれなはまだ納得出来ないようだ。そんなれなにみゆが優しく諭してあげる。
「そうだよ、れな。れなは間もなく党首になるんだからちゃんとした応対をされるのが当たり前。それをれなが止めようとしても無駄だし、そもそもれなは党首の自覚というものが…」
いくられなが敬語を使われるのが嫌だと言っても、村人達がはいそうですかと口調を改めるわけにはいかない。三日月れなは三日月れなである前に、三日月家次期当主の三日月れなであるのだ。それをれなはまだ分かっていない。そういう意味では副党首であるみゆの方が余程よく分かっている。

「あー。分かった、分かったから。はいはい、ちゃんとしますよーだ。というかあたしよりみゆの方が党首に向いていると思うんだけどなー。みゆの方がお姉ちゃんだし、何より力だってあるでしょ」
「んー、そうでもないよ。れなだって知ってるでしょ?三日月村の党首は長女とか次女とかそんなのじゃ決まらない。決定要因はただ一つ。力があるかないかだよ」
「だったら尚更…」
「はいはい、この話はここで終わり。とっとと家に帰るよ、れな」

みゆはそう言ってれなの手をぎゅっと握る。その姿を幸せそうに見ている村人。しかし、ただ一人のお爺ちゃんだけは不安げな表情で見ていた。連れ合いのお婆ちゃんがお爺ちゃんに話しかける。
「お前さん、怖い顔をしてどうしたんだい?」
「いや…二度とあの2人が手を繋ぐ姿が見れないような気がしてのぉ…」
「おやおや、またもや宝くじの予知かい。いい加減にしてくれよぉ」
力を持つ者達で溢れている三日月村。それは正統やはぐれだけに限らず、分家の村人達にも発現していた。もちろん本家の者達に比べれば微々たるものなのだが、確かに力は存在している。現にこの翁にも【先の出来事を視通せる力】が備わっているのだが、それは下駄を放り投げて縦に立つくらいの確立であり、当たる方が珍しいという程度であった。

しかし、この時下駄は立った。


仲が良い姉妹。生まれた時から一緒にいて、同じ時を同じ場所で過ごしている。皆が仲の良い姉妹というのは当然だし、事実この2人はいつも一緒にいた。喧嘩をした事が無いといったら嘘になるのだが、それは子猫や子犬がじゃれあうようなものであり、お互いがお互いに憎しみや殺意を抱く事など絶無だった。だが、それももうすぐ終わる。それは一人の男が三日月村に訪れる事によってもたらされる悲劇であり、この2人の中を切り裂く原因ともなった。


だが、それはまだ先の事。だけども、遥か遠くと言う訳でもなく、数字の単位に直せば後3週間後の事になる。


~Time Is Running Out~

「はい、お邪魔するよ」
お邪魔しますという言葉がある。それは単なる挨拶の言葉であり、真に邪魔をするという意味では使われないのが通常だ。しかし、この時ばかりは金子ローンの者達全員が邪魔という視線を高杉信也に投げ掛けていた。諏訪川市の中心部にある丸安ビル3階にある金子ローンの事務所。一応建前上は消費者金融の名を借りてはいるし経営者は単なる一般人だが、実態のオーナーは諏訪川市の裏側を仕切っている新城組の若頭である滑川忍だという事はこの街の事情通なら誰でも知っている事だ。

暴力団が経営している消費者金融。唯でさえ金融会社などは立ち寄りたくない場所なのに、それをヤクザが経営しているとなれば尚の事近づきたくないだろう。ただ…それでも…どうしてもお金が必要になった揚句、悪魔の囁きと共に契約書にサインしてしまう人もいる。そして追い込みを掛けられて身包み剥がされるのだ。そして最後に残るのは払いきれない利息と役所の失踪届が一枚残るだけだ。

【奪われる】そんな言葉がぴったり符合する金子ローンの事務所に高杉信也は入って行った。【奪われる】為ではない、【奪う】為だ。若い従業員達が(どう見ても見かけはサラリーマンというよりもチンピラのそれだが)高杉に一瞥をくれるが本人は意にも期さない。そして主任の席にふんぞり返っている滑川の元にずかずかと歩く。滑川は黒のシルクハットをアイマスク代りにしながら腕を組んで睡眠の世界に入ろうとしているが、高杉は全くもって気にしない

「なーめーかーわーさん、こんにちはー」
目覚ましの声にしては少々大きすぎる挨拶を投げかけるが、滑川は微動だにしない。周りの若い連中が高杉に駆け寄って止めさせようとするが高杉も微動だにしない。
「しょうがない、もう一度挨拶しますかね」
高杉はそう呟いてすぅっと息を吸い込んだ瞬間、帽子の底から低く陰湿な声が聞こえてきた。
「そんなに大きな声を出さなくとも聞こえていますよ。やっぱり学の無さと声の大きさは比例するんですかね」

滑川は帽子を顔に被ったままで高杉に応答した。高杉は不敵にもドカッと滑川の机に腰をおろして話しかける。
「さすがに大学出は言う事が違うわな、最近の大学じゃ人と話す時は帽子を顔に被りましょーなんて言うのか?」
高杉はにこやかに言っていたが、すっと滑川の帽子に手を伸ばしてシルクハットをピシッと弾き飛ばした。若い連中が身構えるが帽子の下から現れた滑川の冷たい視線が従業員の動きを止める。そして帽子がパサッと落ちる音と同時に滑川は謝罪の言葉を口にした。

「これは失礼しました、確かに礼を逸していたようですね。ところで高杉さんこそ何のようでしょう。最近の警察では人の会社に連絡無しで訪れましょうと指導しているんですかね?」

こりゃ一本取られたな、高杉はそう言いながら苦笑してぺこりと頭を下げた。そして掌を振りかざして滑川の机に叩き付ける。凄まじい衝撃音と共に机の上にあった灰皿や書類が反動で宙に浮く。着地に失敗した灰皿が床面に落ちてガラス製の灰皿が大きな音を立てて割れた。高杉は割れた灰皿を見ながらちょっとしたトリビアを思い出した。事務所に置く灰皿はステンレス製よりもガラス製の方が良い、何故かと言えばいざという時武器になるからだ。昔暴力団事務所に通い詰めていた悪友から教わった事だ。

さすがに他の従業員達も我慢の限界を超えたようだ。即座に高杉に襲いかかろうとするが…
「動くなっ!」
それは高杉の言葉ではなかった、滑川自身の号令だった。よく躾けられた従業員達はピタッと動きを止める。
「いつも言ってるだろ。理由がどうあれサツに手を出したら負けだ。よく覚えておけ」
滑川は高杉をジロジロト舐めまわすように見つめる、そして懇願の口調でお願いをした。
「高杉さん、勘弁して下さいよ。うちは善良な金融会社ですぜ、刑事さんの――しかも泣く子も黙るような暴力団対策を主にする刑事部二課に突っ込まれるような事は誓って…」
無い。滑川はそう言おうとしたが、高杉の眼光が滑川の口を止めた。
「しらばっくれんなよ。お前等の会社、評判が悪いぜ。署の相談コーナーにはお宅の会社名指しで取り立てが厳しすぎると悲鳴が届いてるんだよ。」

「ほーう、そんなに苦情が来てるんですか。なら…出してもらいましょうかね、証拠って奴を」
滑川は知っている、自分達が消費者金融の皮を被った暴力団だという事を。滑川は理解している、自分達の仕事は金を貸すのではない、奪う事だと。そして滑川は確信している、自分達の悪行を密告出来るような【勇気のある奴】などいないという事を。

高杉はぐっと返答に詰まった。それだけで答えは十分だ。形勢逆転を悟った滑川が立ち上がって高杉を見下ろした。細身の体格に2メートル近い身長。それはまさに蛇を連想させたし、高杉を見つめる瞳はまぎれもないそれだった。
「高杉さん、さっき言った事を覚えていますかね?」
「ああ、理由はどうあれサツにゃ手を出すなって奴かい?」
「その通り、実はあれには続きがあるんですよ。ご存じですか?」
高杉が答えを考え込んでいると、滑川が答えを発してくれた。
「どうしても手を出さざるを得ないなら…消せ。【手を出した痕跡すら残さないように消せ】」
「よーく、覚えておくよ。だけどそっちこそ覚えておきな」
右の掌をポケットの中に突っ込む、そして拳銃の感触を確かめた。そして高杉は覚えて欲しい事を伝える。
「消すって事は消される覚悟もあるんだよな?」

お互いが同じ行動をした。その言葉と共に拳銃を握り締める、後はポケットから抜き出して相手の顎先に突き付けるだけだ。
「「もちろんだよ」」
2人の声が重なり、ポケットから殺意の塊を取り出した。

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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