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お楽しみはこれからです

「お楽しみはこれからです」
 ニコッと囁かれた後ドアが閉まり、ガチャっと鍵の閉まる音が聞こえた。そして鍵の掛かった部屋に二人きり。
 
 先程の言葉だけで色んなシーンが連想されると思うが、この状況でまっ先に浮かぶのは敵を捕虜として嬲る風景だ。一番にそれが出る時点でどうかしてると思われるかもしれないが、普段やっているゲームや読んでいる漫画がそれなんだからしょうがない。実行するのはともかくとして思うのは自由だからな。だろ?ア○○スさんよ。ただ一つ違いを挙げるとしたら自分が囚われの身で相手が捉えた側と言う事だ。

 壁添いへと逃げるがじりじりと追い詰められていく。そして背中が壁に付いた。情けない事にペタンと腰を付く。後ろを見るがそこには壁と窓のみ。通常捕らわれる部屋として想像するのは、窓が鉄格子であり光が無い冷たい牢獄だ。しかし今の場所に関してはそれが当てはまらない。

 八畳程の小さな一室、部屋の持ち主は彼女。窓は鉄格子どころか青いカーテンに包まれた普通のガラスだ。鍵を開ければ外に出れるが、さすがに二階からダイブするのは無理だ。内部の様子は肌寒いコンクリートや無機質な壁などではなく、フローリングには読みかけの雑誌やお気に入りのゲームが散乱している。極めつけは部屋の壁に貼られた男性アイドルがポーズを決めて写っているポスターだ。

 そこに貼られている歌手の笑顔は天使のそれだが、目の前にいる彼女の顔はそれとはちょっと違う。笑顔は笑顔だが確実に違うのだ。その表情に怯えながら彼女に向き合う。当然目は合わせられないので、視線を胸元に下げた。
「どこ見てんのよ……」
 静かな言葉でギロっと睨まれたので、すかさず見てはいけないものから目を逸らす。視界に映るのは、黒々としたショートカット。染める事もなくパーマなどを掛ける事もない髪だ。眉もセットする事は無く、化粧もしない。大学生が高校生に間違えられる事はよくあるが、これだと中学生にだって間違えられるだろう。外見的な意味でも、表情的な意味でも。そして、体型的な意味でも。

 以前彼女と一緒に居酒屋に行った事がある。彼女は一杯目から鬼殺しを注文し、店員が身分証明書の有無を尋ねる。もちろんその程度では怒らない。ニコッとしながら学生証を出した。そして店員も謝る。ここまでなら問題無かった。引き金は店員が発した次の一言だった。
「いや~、すいません。思わず中学生かと思っちゃいまして」
「あら、そんなに若く見られるなんて光栄です」
 恐らく店員も悪気は無く、お世辞の一つとして言ったのだろう。しかし、後日その店が閉店しているのが気に掛かった。
「あら、閉店したのね。可哀想」
 そう微笑んだ顔が先程と同じなのだ。

 その笑顔が今目の前にある。思い出せ、何をした?何をやらかした?してしまった事は沢山あるけど、何が露見したのか分からない。友達と話している時に、彼女の胸をさくらんぼじゃなくてレーズン呼ばわりした事を聞いてしまったのか?または彼女がシャワーを浴びている際に、脱衣所の下着を持ち出して至福の時を味わった事が明るみになったのか?それとも自分一人で彼女の部屋にいる時に、彼女のテニスラケットを股間に擦りつけている現場を発見されてしまったのか?

 分からない、全く分からない。確かに最後のは危険だ。脳内では罵られ責められる妄想をしつつ手を動かしていましたなんて言える訳がない。言ったが最後、人生の終わりだ。

「ねぇ……」
 彼女が屈みこみ自分の顔をじっと見つめる。表情は変えない、言葉も発しない、沈黙の空気が流れ、無言の空間が訪れる。だけども無言だからこその怖さがそこにはあった。じっと見つめられ、威圧感を感じる。殺気というものが本当にあるかどうかは知らないが、今感じている感覚がそれだというのなら、彼女は気合で獅子をも怯ませるだろう。怖くて目が見れない。視界を閉じる。それでも確実に何かを感じる。遂には、大きく口を開いて暴露してしまった。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!お前の彼女が羨ましいよ。でっかいプリンにさくらんぼだろ?こっちはまな板レーズンだぜ。なんて言いました!後は仰向けになった状態で着用済みの下着を顔に当て、思う存分香りを味わいました!最後はテニスラケットのグリップをグリップしてしまいました!!」

 返答が聞こえない。聞こえるのはアナログ時計のチクタクチクタクという音だけだ。そっと目を開く。彼女がニコッとほほ笑んでいる。そして顔を下に向けてため息。息を大きく吐いた後、疑問の答えが聞こえてきた。

「本で読んだテクニックなんだけどね。眉一つ動かさない笑顔でじっと相手を見つめると、やましい事がある相手は白状するんだって」

 お互いに言葉が出ない。先に発言した方が負けな気がした。それでも彼女が先に口を開いた。ああ、今気付いた。勝ちとか負けとかじゃない。最初から勝者は決まっているし、常に敗者は確定しているのだ。裁判官の判決が聞こえてくる。

「まぁ良いや。ゆっくりと、全部についての詳細を、確実に聞かせてもらおうかしら」 
 そう言って彼女は立ちあがる。そして思い出したように、部屋の隅にある物体に手を伸ばした。
「そうそう、これについてもね」
 その手にはテニスラケットが握られている。ラケットはあるがボールは無い。しかしその問題は既に解決している。だって彼女の目の前にボールがあるんだから。

「お楽しみは、これからです」
 彼女はにこやかにそう言った。自分もこれから起こる事を想像して興奮した。痛いのも、怖いのも、苛められるのも、全部が楽しみであり、全部が幸せなんだから。

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仕事くれと思ったり、仕事辞めてぇと思ったり、ニート最強と思ったり、そんな有意義な事を考えつつちまちま更新(?)していくブログです。

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